約 4,860,768 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/158.html
魔法少女リリカルなのはVS轟轟戦隊ボウケンジャー クロス元:轟轟戦隊ボウケンジャー ExtraTask 01 異界の来訪者 ExtraTask 02 隠されし術 ExtraTask 03 新たなる冒険者(1)(2) 魔法少女リリカルなのは―MEIOU クロス元:冥王計画ゼオライマー 第一話 冥王、黄昏に降臨す 第一話―B 少年は牢獄に己を失う フェイト外伝――月下光影―― クロス元:忍~Shinobi~ ※完結 第一話 朧月 第二話 嵐 第三話 双雷 最終話 暁光 なのは×錬金 クロス元:武装錬金、からくりサーカス、鋼の錬金術師 シャンバラを往く者 第1話 郷愁/黒死の蝶 第2話 海鳴の途絶える日/Link 第3話 真理の扉/からくり~しろがね 第一幕 開幕ベル 第4話 『光』(前半)(後半) LYRICAL THAN BLACK クロス元:黒の契約者 最終更新:09/12/21 予告編 第一話 彼女の空を星は流れ……(前編)(前編―B) 第二話 彼女の空を星は流れ……(後編)(後編―B) 第三話 新星は夜天の空を焦がし……(前編)(前編-B)(前編-C) 4/20 作者:LTB3話を微修正。次回は5月上旬を目標に。 拍手感想レス :LYRICAL THAN BLACKは設定に違和感がなくて面白いです!! :黒の契約者が面白いです。待ってます。 :塞がれた瞼から 流れ出した涙 :繰り返し蝕まれる 理性と血の欠片 :気づいたんですが、海鳴市って東京にはないんですよ。 :うっわーーw続き読みてぇーっつか、あの黒契をよくくっ付けたなーw最高b コメント欄 感想、ご質問等ございましたらお気軽にお使いください この続きをどれだけ待ち望んでいたか・・・・ -- 名無しさん (2009-12-21 23 33 43) LYRICAL THAN BLACKの続きが見れて、本当にうれしいです! これからも体調に気をつけて頑張ってください! -- 名無しさん (2009-12-22 08 05 36) DARKERきた!これで勝つる!! -- 名無しさん (2009-12-22 21 02 07) なのは×錬金の方もぼちぼちでいいので更新お願いします -- 名無しさん (2009-12-22 23 00 14) 遅かったじゃないか・・・感動してしまったよ -- 名無しさん (2009-12-23 13 22 00) 更新される日を楽しみに待ってました。これからも期待しています。 -- リョウ (2009-12-23 21 03 35) いつか来ると信じていた -- 名無しさん (2009-12-24 09 41 56) 待ち続けていた意味があったなぁ……おもしろいよ! -- 名無しさん (2009-12-24 23 53 40) 待っていたよ。この瞬間を -- 名無しさん (2009-12-27 13 08 45) ジャック・サイモンはまだですかー? -- 名無しさん (2009-12-31 16 58 18) ボウケンジャーのクロス、今更だけど続き気になるw;^^ -- 名無しさん (2010-01-01 11 17 09) 新たなる冒険者っていうのが気になるね? -- ボウケングリーン (2010-01-01 22 51 19) コメントありがとうございます、少々質問等に返信を。中断中の作品が気になる方もいらっしゃるようで、大変申し訳ありません。 恥ずかしながら、上記のどちらも、当時オリジナルの敵(ボウケン)や多重クロスを軽く考えていたのが中断の原因です。 錬金は特に長編になる上、ボウケン完結後と書きましたので、今からでも、しっかり固めてから再開したいと考えております。 ジャック・サイモンは次々回。 -- なのはVSボウケン (2010-01-02 23 34 53) 全く違和感なく読めてびっくりしました!続きをとても楽しみに待ってます!! -- 名無しさん (2010-01-05 00 47 19) ボウケンの続き、いつまでも待ってます! -- 名無しさん (2010-01-05 03 03 45) 個人的に話数の短いLYRICAL THAN BLACKを優先して欲しいですねww -- 名無しさん (2010-01-05 20 28 39) どうでもいい事なんですが、3話読んで気になったんですが、 風邪や花粉症と時差ボケは性質が違うのではないでしょうか?(契約者でもなるのでは?) 最後の黒さんは、警官に本当に聞きに行かれたらやばかった?これは次回で語られるんでしょうか。 -- 名無しさん (2010-01-21 21 43 33) 良かった…(つд`) 作者さんが生きてて… -- 名無しさん (2010-01-28 21 12 19) ハヴォックの話がどうなるか楽しみすぎる -- 名無しさん (2010-01-28 22 46 23) 時差ボケに関しては、今はらしくないミス、とだけ。 黒の発言は、店員がアパート隣室の黒人バボなので、口裏合わせを頼める――と思ってましたが、 改めて確認したらちょっと似てるけど別人でしたorz 何十回と復習したのに勘違いしてたようです。面目ない -- なのはVSボウケン (2010-01-29 00 44 24) DTBの雰囲気が消えずにうまくマッチしていました。続きを楽しみにしています。 警官が店員に聞きに行かれたら、たぶん黒は2人を連れて警官が聞きに行った隙にでも逃げれたのではないでしょうか。 -- 名無しさん (2010-02-01 02 52 12) 名前 コメント TOPページへ このページの先頭へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3709.html
「なのはちゃん…!」 はやてはそう一言呟いたきり言葉を失う。 「ザフィーラさん! 急いで下がって下さい!!」 なのはの言葉に、ザフィーラは頷いて後方へと飛び去る。 はやては急速に遠ざかって行くなのはの姿を、心配そうにいつまでも見つめていた。 「そうはさせるかよ!」 スタースクリームはそう言って二人目掛けてミサイルを一発放つ。 “アクセルシューター、ドライブイグニッション!” ミサイルが発射されるのと同時になのはが持つ長杖型のデバイス、レイジングハート先端部にあるコアに文字が表示される。 「シュート!」 なのはがそう叫ぶと同時にピンクの魔力光が一筋放たれ、はやて達を狙うスタースクリームのミサイルに命中する。 バラバラになって落ちていくミサイルを見たスタースクリームは、はやてからなのはに顔を向けて感心したような口調で言う。 「ほぉ? ちったぁやるようだな」 次いでスタースクリームは右手を上げて、機銃の狙いをなのはに定める。 「目標変更だ、まずはてめぇから血祭りに上げてやる!」 その言葉と共にスタースクリームの銃口が火を噴き、なのは目掛けて機銃弾の雨が降り注ぐ。 同時になのはもアクセルシューターを連射してスタースクリームの機銃弾をことごとく撃ち落としていく。 「しゃらくせえ!」 スタースクリームは毒づくと、ミサイルを乱射しながらなのはへ目掛けて一直線に突っ込んで行く。 なのははスタースクリームと等速で後退しながら、ミサイルをアクセルシューターで次々と撃ち落とす。 “ファントム・スマッシャー” レイジングハートに再び文字が浮かび上がる。 「シュー―――」 なのはがより強力な攻撃魔法を放とうとした時、スタースクリームはアフターバーナーをかけて一気に距離を詰めて来る。 「―――ッ!」 反射的に左横へ回避動作を取らなかったら、なのはは金属の巨体とまともにぶつかって弾き飛ばされていただろう。 「ちっ!」 スタースクリームが舌打ちしながら急停止するのと同時に、なのはの胸元のリボンが切れて落ちる。 振り向いたスタースクリームの両手には短刀と鞘があった。 スタースクリームが鞘とナイフの柄を合わせ、それぞれ左右逆方向に回すと金属が擦り合う音と共に薙刀へと変わる。 スタースクリームはそれを片手で持ち上げて振り回しながら、再び超スピードでなのはへと斬りかかる。 なのはは間一髪の差でそれを回避するが、そこへすかさず反対側の刃が襲い掛かる、それに対してなのははプロテクションを 斜め横に展開して、力点をずらして刃を受け流す。 縦横無尽なスタースクリームの薙刀さばきに、なのはは回避だけで手一杯の状況に追い込まれた。 このままでは真っ二つに切り裂かれるのは、誰の目にも明らかだ。 「どうしたぁ、もう終わりかぁ!?」 雄たけびを上げながら薙刀を振るっていたスタースクリームの右腕が突然動かなくなる。 「!?」 いきなりの事に戸惑ったスタースクリームが手元を見ると、薙刀を握っている右手にミッド 式魔方陣から伸びる鎖の形をしたバインドが絡みついていた。 捕縛盾(バインディングシールド)で動きが封じられている隙に、なのはは後方へ最大限の速度で飛ぶ。 スタースクリームもすぐ我に返り、戦闘機に変形して捕縛盾を引き千切ってその後を追う。 “マスター!” レイジングハートが言葉を掛けると、急速に距離を縮めるスタースクリームを見詰めながら 頷いて答える。 「うん、速いね。詠唱している余裕はないみたい。レイジングハート!」 なのはの指示を受けて、レイジングハートはなのは共同で開発したオリジナルシステムを起動させる。 “了解、TTS(Thinking Tuning System=思考同調機能)を起動させます” なのはがデバイスを構えたのを見たスタースクリームが、嘲りの笑みを浮かべながら再びアフターバーナーをかけて一気に詰め 寄ろうとしたその時。 “エクセリオンバスター” レイジングハートのコア表面に文字が浮かぶと同時に金色の大きい魔力光が放たれ、スタースクリームの顔面に直撃する。 「がっ…!」 思わぬ衝撃にスタースクリームがのけ反り返ると、なのははそこへ間髪入れず立て続けに撃ち込む。 “バスター! バスター! バスター! バスター!” 次々と撃ち込まれる攻撃魔法に、スタースクリームは路上に叩き落とされる。 なのはは攻撃を中止し、カートリッジを排挾するレイジングハートを構えたまま様子を見る。 埃と煙が収まると、路上には引き潰された蛙のように、仰向けで無様にぶっ倒れている スタースクリームの姿があった。 「野郎ォ…!」 スタースクリームは起き上がると、なのはを憎々しげに睨み付けながら飛び上がろうとする。 その時、スタースクリームの右横に空間モニターが一つ開いた。 「スタースクリーム、人間一人に何を手こずっておる?」 メガトロンからの突然の通信に、スタースクリームは狼狽を露わに答える。 「こ、これはメガトロン様。相手が思いの外手強いもので…。ですがご安心を、すぐに潰してご覧に入れます」 「最初の目標をあっさりと逃してか?」 「あ…い・いや、それは、その…」 なのはは、スタースクリームが自分を放って誰と通信を交わしている様子を、怪訝な表情で見ていた。 一方、そんななのはにお構いなく、メガトロンは言葉に詰まったスタースクリームをからかうように言った。 「もういい、その人間は儂が直々に相手をしてやろう」 「お・お待ちくださいメガトロン様! こんな人間程度でお出ましになる必要は―――」 そう言いかけたスタースクリームの言葉をメガトロンは苛立たしげに遮る。 「いいから下がれスタースクリーム! これは命令だ!」 そう言われたスタースクリームは、肩を落として答える。 「わ、分かりました…」 モニターが切られると、スタースクリームは苛立ち紛れに路面を蹴飛ばして舗装を辺り一面に撒き散らす。 「畜生! あと少しってところで邪魔しやがって!!」 ひとしきり悪態をつくと、なのはを睨みつけながら言う。 「命拾いしたな人間! だが、メガトロン相手じゃ塵一つも残らんかもな!」 そして戦闘機に変形すると、捨て台詞を残して飛び去って行った。 「あばよ! せいぜい五体満足で葬式を出してもらえるよう、お祈りでもしとくんだな!!」 「…!?」 突然スタースクリームが引き揚げた事に、なのはは首を傾げていると、彼女の真横で空間モニターが開いた。 「高町一佐、たった今聖王教会より魔神が飛び立ったと報告がありました!」 そう喋る、黒毛の目の大きいゴリラのような顔のオペレーターの緊張した表情から、なのははスタースクリームが引き上げた 理由と次に何が起こるかを悟った。 「狙いが私…ですね?」 言うべき事を先を取られたオペレーターは驚いたような表情を浮かべたが、すぐに平静に戻って話を続ける。 「は、はい! 八神一佐から高町一佐に攻撃目標が変わったと推測されます! 大至急―――」 「分かりました、直ちに迎撃に向かいます」 オペレーターの言葉を遮って、なのはは言う。 「え!? あ、あの…一佐…」 言葉に詰まったオペレーターが当惑した表情で周囲を見回すと、モニターの表示はゲラー長官に切り替わった。 「高町一佐、相手は君と同じオーバーSランクの聖王教会法王を苦もなく屠った化け物だぞ」 冷徹な口調で言うゲラー長官に、なのはは決然とした表情で答える。 「分かってます。ですが敵の狙いが私であるなら、もし引き上げた場合クラナガン市街への更なる被害が懸念されます。 その点、私が洋上に出て迎え撃てば、魔神の市街地への侵入は阻止できますし、万が一私が敗れればそれで満足して引き 揚げる事も考えられます」 「確証はあるのか?」 再度問い掛けられた時、なのはの中では迷いがあった。魔神の狙いと市街への被害について、そしてセクター7内で見た凍り 漬けの魔神が放っていた禍々しさに対する恐怖。 「あります!」 それらの感情を押し殺し、なのはは自信ありという態度で断言する。 一方、ゲラー長官も答えが出るまでの一瞬の間に、なのはの迷いと恐れを敏感に感じ取っていた。 そして、なのはの言葉にも理がある事を、相手が相手だけになのは以外では対抗する術がない事も、十二分に理解している。 「分かった、君に任せよう」 ゲラー長官はなのはの提案を受け入れると、念を押すように言葉を続けた。 「だが、決して無理はするな。勝てないと思ったらすぐに逃げろ、いいな?」 「はいっ!」 長官の言葉を受けて、なのはは力強く頷いた。 ブロウルが次々とミサイルを発射すると、ティアナはバイクを急発進させて回避する。 目標を見失ったミサイルはそのまま路上や建物に命中して煙と破片を撒き散らす。 煙と埃で視界を遮られたブロウルに、ティアナから撃ち出された魔力弾が命中するが、ことごとく装甲表面で弾かれて傷一つ負わせる 事が出来ない。 弾は派手に飛び交う割に、状況はほとんど変化しないという奇妙な膠着状態に、ブロウルは苛立ちも露わに唸り声を上げる。 一方、ティアナの方は敵の注意を自分に引き付けて、市街地から廃棄都市区画へブロウルを誘導する…という作戦を立てて動いていた。 作戦自体は今のところ順調に行っていると考えてます差し支えなかった。 “セイン、あとどれくらい?” 先行して目的の廃棄都市区画までの距離を計測しているセインへティアナは問いかける。 “あと五分ほどです” それを聞いたティアナの顔に笑みが浮かぶ。 “OK! 魔力の散布は既に十分だし、廃棄都市区画まで誘い込めれば―――” ティアナの念話は、 セインからの悲鳴に近い警告に遮られる。 “し、執務官補! 未確認物体が一つ急速に接近中です!” それと同時に、人型に変形したダブルフェイスが、うらぶれた雑居ビルを突き破ってティアナへ躍りかかる。 「!!」 いきなりの事にティアナが驚愕の表情を浮かべると同時に、乗っていたバイクが突然乗り手を空中に放り投げて上半身女性、下半身 車輪の機械人間に変形する。 人間に変形したバイクは路面スレスレまで身体を倒してダブルフェイスの下を掻い潜る。 攻撃をかわされたダブルフェイスは、そのまま派手に地面を転げまわる。 一方、女性型機械人間の方は再びバイクに戻って、真上に落ちてきたティアナを受け止める。 「え…!? え、ええ…!?」 突然の事に呆気に取られているティアナを乗せて、バイクは猛スピードで走り去る。 「“サイバトロン”…だと!?」 攻撃を避けられたダブルフェイスが、呻くように低く呟いた。 洋上に出たなのはは、背後に拡がるクラナガン市街の方を振り向く。 市街のあちこちから煙が立ち上り、緊急車両のサイレンの音が遠く離れたなのはの耳にも聞こえてきた。 “マスター” レイジングハートに促されて、なのはは海の向こうに再び目を向ける。 魔神の姿は見えないが、相手はこちらの姿を捉えて確実に近づきつつあるのが、皮膚越しにはっきりと感じ取れる。 なのはは、自分の手持ちのカートリッジの確認を始める。 レイジングハートには全6発中半分使ったカートリッジが1本、バリアジャケット内のアンモパウチには全弾装填されたカートリッジが 4本、普通なら戦うには充分だが魔神相手では心もとないように、なのはには感じられた。 “相手は聖王教会法王を屠った怪物…だったね” なのははレイジングハートに話しかける、TTSによる、念話すら介さない直接の思考のやり取りなので、処理時間も速く、秘匿性も 段違いに優れている。 “はい、マスター” “と…なると、長期戦は絶対に禁物、短期決戦で決着を付けなければならない” “はい。それも全力を出せる一瞬の間で決するかと思います” “瞬間で相手に総てを叩きつなければ、こちらに勝機はない…って事?” “そうです、マスター” “と、なると…” 会話を始めてから結論が出るまでにかかった時間はわずか一秒ほど。 レイジングハートが差し込まれたカートリッジを全弾ロードすると、なのはは次のカートリッジに交換する。 持てるカートリッジ総てを使い切ると同時に、“ブラスターモード”に移行したレイジングハートから左右大きな光の羽が二枚、上下に 四枚の羽根が現れ、“ブラスターピット”と呼ばれる金色に光る三角形の小型飛行物体がなのはの両肩に二機ずつ現れた。 オペレーターがなのはに告げる。 「魔神の到達まであと数分、視認が可能になります」 なのはが空を見上げると、遥かな高空から炎の塊が一つ、急速にこちらへと降下しているのが見えた。 “古代ベルカの驚異的な発展を可能にし、そして恐らく滅亡の本当の原因ともなった秘宝中の秘宝…” “…死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る…” なのはの中で、シモンズの言葉とカリムの預言がよぎる。 “レイジングハート…ホントにいい?” 死と隣り合わせの状況を前に、なのはは意思確認するかのようにレイジングハートへ話しかける。 “もちろんですマスター、あなたと私は死ぬまで一緒です” レイジングハートからの、主と運命を共に出来る事を喜ぶ返事に、なのははわずかに表情をほころばせた。 「高町一佐! 魔神は既に攻撃可能範囲に入っています!」 オペレーターが呼び掛けても、なのははレイジングハートを構えたまま、身動き一つ取らない。 「いったい何を考えて…!」 「…自殺でもする気か?」 「待っているんだ」 騒ぐ幕僚たちを制するかのように、ゲラー長官の言葉が重く響いた。 それを聞いた幕僚たちは、水を打ったかのように静まり返り、長官に目を向ける。 「相手が相手だけに長くは戦えない…となると、ギリギリまで引きつけて短時間、それも一瞬で全力を叩きつけて倒すつもりだろう」 それを聞いた幕僚たちの視線は、再びモニター上のなのはに集まった。 初めは小さな流星だった魔神の姿は、降下するにつれて大きくなり、今や天をも焼き尽くさんばかりの劫火となって、なのはを 押し潰さんばかりに迫ってくる。 “400km…350km…300km” レイジングハートは魔神の姿を視認すると同時に、距離を計測してなのはに伝えている。 並みの魔導師なら逃げ出すか気を失うような凄まじいプレッシャーがかかる中、なのははレイジングハートを握り締め、魔神から 視線を外さない。 なのはの様子を見たメガトロンは、ニヤリとほくそ笑むと更に加速とプレッシャーをかける。 “100km…50、40、30…10、9、8…” 距離が二ケタを切っても、なのははなおも動かない。 “…1” レイジングハートがそう告げた時、なのはは遂に自らの切り札を出した。 “スターライトブレイカー” 次の瞬間、レイジングハートとブラスターピットから桜色の目も眩むような強烈な光が溢れ出し、なのはの眼前に迫った魔神を 包み込む。 光の勢いはそれで減じる事はなく、そのまま空を駆け昇り、成層圏を突き抜け、そして…。 「スターライトブレイカー、月面に着弾しました」 NMCCでは、恐竜のような長い首に赤いつぶらな瞳のオペレーターが、茫然とした表情で報告する。 「魔神が完全に破壊されたかどうか、大至急確認させろ」 額から角が二本生え、めくれ上がった唇から牙が露わになった幕僚が指示を出すと、オペレーターは真顔に戻って空間モニター を開く。 「どう思いますか?」 ヘルメットを被った女性幕僚がゲラー長官に尋ねる。 「普通に考えれば、これで一件落着…と言いたいところだが…」 長官の後を継いで、ゲンヤ少将が続ける。 「相手が相手だけに、油断は禁物ですな」 レイジングハートが排気してアクセルモードに戻ると、持てる力総てを出し切ったなのはは、グラリと体勢を崩す。 深呼吸して体を落ち着かせようとするが、そんな努力を裏切るように激しい動悸と嘔吐感が襲う。 少し落ち着いてから空を見上げると、魔神の姿は見当たらない。 なのはの顔にかすかに安堵の表情が浮かんだ。 一方、本局の方では幕僚たちが緊張した面持ちで、月面の状況の報告を待っていた。 「このまま完全に破壊されてればいいが…」 幕僚の一人が言うと、もう一人が首を横に振りながら言う。 「あんまり過大な期待はしない方がいいが、せめて動けなくなるぐらいならば…」 幕僚たちの希望的観測には意に介さず、ゲラー長官は無言で席に座っている。 空間モニターが開いて、幕僚たちの議論が途絶える。 「各地の観測所の報告を総合した結果、月面上には残骸も何も確認できません。 蒸発したのでなければ、まだ動いている可能性が」 その報告に、場の空気が一気に凍りついた。 同じ時、なのはも突然膨れ上がる殺気を感じ取った。 「マスター!」 レイジングハートからの警告を受ける前になのははプロテクションを展開する、と同時に足元の海から大きなエネルギー弾が なのはを襲う。 プロテクションで辛うじて防いだものの、それで複数張ったシールドは完全に砕け散ってしまう。 続いて二発目が撃ち込まれ、これはなのはを直撃して体を宙へ舞い上げる。 「貴様の力、その程度か!」 その声と共に海を裂いて魔神が空へと躍り上がる、名前の由来となった銀色に輝くボディには傷一つ見当たらないない。 「よく見ておけスタースクリーム、本当の体当たりとは、このようにやるのだ!」 魔神はそう言いながら右手を伸ばして落下するなのはを掴むと、ゆりかごに変形して猛スピードでクラナガン市街へと飛ぶ。 本局NMCCは、魔神が無傷で現れた事で大混乱に陥っていた。 オペレーターも士官も幕僚も、みな空間モニターに怒鳴り声を上げ、右往左往する。 「オペレーターに魔神がどこへ向かってるか至急確認させろ!」 そんな状況の中、ゲンヤ少将は近くで茫然と立っていた、赤い顔に長い花をした士官の襟首を掴んで大声で指示を出す。 命令を受けた士官は我に返ると、NMCCへ駆け出してオペレーターの一人にそれを伝える。 オペレーターは周囲の同僚にも協力を仰いで、なのはと魔神が戦った位置と現在位置を基に進路上にある大きい建造物を調べて 行く。 「本局か!? 「いや、それなら進路は少し北にずれてないか?」 「と、なると…」 少し議論した後、オペレーターは結果を士官へ報告した。 「目的地は本局、または次元世界貿易センタービルと見られます」 次元世界貿易センタービルとは、本局に次ぐ750階という高さを誇る高層建築物で、複数の世界で活躍する多国籍企業の多くが 本社機能を持つオフィスを構える、次元世界の経済の中枢とも言える建物である。 「マスター、魔神は次元世界貿易センタービルに向かっています!」 レイジングハートがなのはに状況を伝えるも、スターライトブレイカーで全力を出し切った事に加え、先程の攻撃によるダメージで 身動きすらままならない。 意識が途切れそうになるのに必死で抗いながら、なのはは魔神の向かう方向へ顔を向ける。 ビルが急速に近づいてくるのを見た時、何も出来る事がない事をなのはは悟った。 せめてダメージだけでも最小限度に抑えようと、なのはは残る力をフルに使ってプロテクションを幾重にも展開する。 総ての力を使い果たしたなのはが意識を失うのと同時に、魔神はセンタービル529階のフロアに突っ込んだ。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1137.html
彼はごく普通の男だった 父と母、そして妹の3人が彼の家族だった 彼は戦士だった 父、母、妹を殺され復讐のため、彼は戦士になった 彼には仲間がいた 技の戦士がいた 力の戦士がいた 足りない力をその知恵で補った戦士がいた 海を駆ける戦士がいた 野性の力を宿す戦士がいた 電気と拳で戦う戦士がいた 大空を翔る戦士がいた 五つの腕と拳法で戦う戦士がいた 完全機械の忍びの戦士がいた 彼らとともに、人類の自由と平和を守るために戦った ―――●●●●●●!!!頼む!俺を●●●●にしてくれ!!!――― それは決意と始まりの言葉 ―――後は頼んだぜ!!●●!!――― 激しい戦いが続き、戦友は一人、また一人と散っていった 彼は独りになった それでも彼は戦い続けた 友が信じた正義を、託された想いを胸に抱き 傷つき、倒れようとも立ち上がり ついに平和を手に入れた 誓った仲間はもう誰もいなかったが彼は満足だった 穏やかな日々が続き そうして、人類は自ら滅んだ 彼は本当に孤独になった ―――魔法少女リリカルなのはA s―S.I.C―帰ってきたV3――――始まります 見渡す限りの砂漠の世界。時折、文明の名残かビルの残骸が見える 天空には三つの太陽が輝き、地表を灼き尽くさんばかりに照り付けている 人類が滅んだこの世界では砂竜が食物連鎖の頂点である。 彼らは環境の変動による突然変異で誕生した。 本来ならばこの世界のかつての人類のように魔力をもつことはあまりない しかし、稀にこの種の中から莫大な魔力を持つリンカーコアを保持するものが生まれることがあった。 「なんなんだよこいつは……!?」 はやての為、リンカーコアを回収するためにヴィータは砂竜と戦っていた そこそこ手強い相手ではあるもの、その強さに比例しない強大な魔力を持った相手であり、ページを増やすにはうってつけの相手の"はず"だった。 そう、そのはずだったのだ。 単なる経験値の高いボーナスモンスターのような存在だと思った。 敵を侮り、逃げる砂竜相手に狩猟気分を味わいながら追い詰めた。 実際は深追いし、気がつけば巧みに誘導され、20匹ほどの群れに囲まれてしまっていた。 ヴィータが追っていた砂竜は他の固体とは明らかに際立っていた。 ふたまわりも大く全身が白く、後頭部(?)から2本の触覚が生えていた。 先ほどから周囲を囲んでいた雑兵は手を出さず。ボス砂竜は"にやり"と嗤った 「!!?」 明らかに嘲笑だ! この鉄槌の騎士ヴィータが嗤われた!ベルカの騎士である自分が!嘲られた!蟲ごときに!! いや、もう蟲とは呼ぶまい!獲物とは呼ぶまい! 鉄槌の騎士ヴィータはこいつらを倒すべき"敵"と認識した! 「でえええええええええゃゃああああああああああ!!!!」 吼えた!目の前の敵を打ち倒すべく、愛する主に誓いを立て騎士は立ち向かった!! GUUUUUOOOOOOOOOOO!!!!!!!! 鬨の声をあげ砂竜が応える。 1対20 覚悟を決めたヴィータの相手にはやや不足の相手かもしれなかった。 しかし「鉄槌の騎士」といえど連日の戦闘、管理局の目を盗んでのリンカーコア回収による疲労は確実に戦闘力を削いでいた。 それに加え、砂竜どもは巧みに連携し、死角をつき、仲間が倒されようともかえりみず襲い掛かる。 6:4でこちらのやや不利だったが気にしない邪魔する相手を叩き、潰し、崩し、抉り、鬼神の如き有様で葬り去っていった。 「テートリヒ・シュラーク!!」 最後の雑兵が倒れた。 こいつらをいくら倒してもリンカーコアを得ることはできない。 ボスはそこにいた。 どうやら2本の触覚で雑兵を操っていたようだ こいつにとっては部下など換えの聞く駒でしかないらしい 全ての雑兵が倒れようやく動き出す。 「残りはてめぇだけだ!!」 魔力はほとんど残っていなかったがそれを微塵も感じさせぬほどの気迫だった。 ボス砂竜は大きく口を開け、灰色の巨大な魔力を収束させている 原始的な魔力砲だ。普段なら何の問題もないが満身創痍の自分には危険だ。 一撃で決めるしかない! 「ギガント……シュラーク!!」 残りの魔力を全てつぎ込んで、相棒グラーフアイゼンが身の丈10倍に迫る巨大なハンマーに変化する。 それと同時に魔力砲が発射された。 魔力砲をぶち抜いて、本体を潰す!ギガントシュラークをたたきつけようとした瞬間 「轟天………!!爆さ…!?」 ガゥン!!! 轟音とともに巨大砂竜の頭部が揺らぐ 「………あ?」 ガゥンっ!!ガゥン!!!ガゥン!!! GUSYAAAAAAAAAAAAA!!!!! 最初の銃声から3発、計4発で巨大砂竜は断末魔の叫びを上げて崩れ落ちた 穿たれた穴から毒々しい色の体液が噴出し、ヴィータに降り注ぐ 「うぇ!べっべっ!!きたねぇ! くせぇ!!」 降り注いでくる体液に辟易しつつ射撃地点と思われる方向を見る。 そこに人の容をした"ナニカ"がいた。 赤い仮面、緑の複眼、2つの風車を模したようなベルト、継ぎ接ぎに見えるプロテクターをまとった"何か"がマフラーを棚引かせて立っていた。 その手には先の砂竜を屠ったと思われるひょうたん型の奇妙な銃が、硝煙をくゆらせている。 「いったい…なんなんだよ………?」 「……人間?………女の子だと?」 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1251.html
魔法少女フルメタなのは第三話「新たな生活」 機動六課内 訓練場 ここでは現在、六課フォワードメンバーと、嘱託魔道士二名が魔法戦の訓練を行っていた。 「はい皆そこまで~。次は模擬戦だよ。」 なのはがそう言い、六人は手を止めて集まって来る。 「今日の模擬戦は私とじゃなくて、嘱託の二人対正規メンバーでやってもらうよ。」 「相良さん達とですか?」 「うん。二人の覚えた魔法のチェックも兼ねてね。」 「よろしく頼む。」 「お手柔らかにな~。」宗介、クルツの両名が四人と向き合う。 「相良さん、今日は負けませんよ!」 「自分の意志は言葉でなく行動で示せ、ナカジマ。」 宗介とスバル、 「クルツさん、今日こそは倒させてもらいます。」 「おいおい、もっと気楽に行こうぜティアナちゃ~ん。」 クルツとティアナがそれぞれ言う。 実はこの四人宗介達が嘱託となった時に一度模擬戦をしており、スバルとティアナはその時にボロ負けしたのだ。 あたし達、あれから猛練習したんです。この前の二の舞にはなりません!」 「二度言わせるな。意志は行動で示せ。アーバレスト!」 「よし、俺もいくぜ。M9!」 『『了解、起動します。』』 宗介達が嘱託魔道士となったのは、次の様な経緯がある。 シャマルが運ばれてきた二人の男を検査した時に、体内から大型のリンカーコア反応を検知したのだ。 その報告に興味を持ったのが、六課のちび狸…もとい部隊長のはやてである。 戦力の確保に貪欲な彼女は、「管理局に協力すればより早く元の世界の座標を調べ、当面の生活も保証する」 という条件を持って来て、尚且つ管理局の規則やリミッターからも逃れられる嘱託魔道士という形での協力を求めたのだ。 異世界でのアテなどある筈のない二人は、少し悩んだ後承諾したのである。 「ほな、これは君らに返さんとな。」そう言ってはやては鞄から白と灰色の宝石の様なものを取り出し、二人に渡す。 「これは?」 「インテリジェントデバイスや。君達専用のな。」 「俺達専用?それはどういう…」 『ただ今戻りました軍曹殿。二日振りですね。』 「アルか!?」 聞き慣れた男性の機械音声が響き、宗介は驚く。」 『肯定。姿はだいぶ変わりましたが、私は私のままです。』 アルは以前と変わらぬ抑揚のない声で言う。 「何故アルがデバイスとやらになっているんだ?」 「えーとね…見つけた時はまだロボットだったんだけど…触れたらなんかそうなっちゃったの…」 なのはが言い辛そうに説明する。 「俺のM9もか…」 呟くようにクルツが言う。 「とにかく、うちのデバイスマイスターに見てもろたけど、デバイスとしての使用に問題はないそうや。 その子ら使って、魔道士としての仕事に励んでや。」 だが二人は… (元の世界に戻った時、上に何と報告すれば…) (M9て確か数千万ドルだよな…もし弁償になったら…) 拭い切れない不安に、表情を暗くしていた。 その後紆余曲折あったものの、何とか二人とも試験をパスし、現在に至る。 「アル!」 「M9!」 叫んだ二人の身体が光に包まれ、バリアジャケットが装着される。 宗介のは全体的に白く、肩回りが大きく張り出したデザインで、腰にはショットガンの様な銃型デバイスが付いている。 クルツのは上腕全体を覆う装甲板と、色が灰色な所以外は宗介のと似通っており、手には大きなライフルを持っていた。 「それでは模擬戦、スタート!」 なのはの合図を皮切りに、六人は瞬時に動き始めた。 宗介はショットガンを前方に構え、クルツは転移魔法で狙撃ポイントに移動する。 「うおおお!!」 突っ込んできたスバルに牽制の魔力散弾を撃つが、素早く回避され距離を詰められる。 「センスは良いが攻撃は一直線だな。アル、GRAW‐2!」 『了解。GRAW‐2』 宗介の左脇の兵装ラックが開き、そこから大型のナイフが表れた。 『魔力刃、展開します。』 アルがそう言うと、青みがかった白い魔力が刃の部分に集まり、発光する。 (余談だが、この魔力刃は高速で動いている為、ナイフと言うよりチェーンソーに近い武器となる。) 体を捻ってスバルの一撃を避けた宗は、体を戻す勢いを利用して斬り掛かる。スバルは咄嗟に左の手甲で防ぐが、GRAW‐2の威力に体勢を崩す。 「うわっ!」 宗介はその隙を見逃さず、ショットガンをスバルの腹に押し付けた。 「寝ていろ。」 ズドン!! 言うと同時にトリガーを引き、零距離で散弾を食らったスバルは吹き飛んだ。 「スバルさん!くっそー!!」 ストラーダを構え、ソニックムーヴで迫るエリオ。 だが宗介は顔色一つ変えず、ショットガンをしまいながら命じた。 「アル、ATDだ。」 『了解。ATD』 すると宗介の手の中に投げナイフ型の凝縮魔力が形成され、それをエリオに向けて放った。 エリオは障壁を張るが、ATDはその障壁に刺さり、爆発を起こす。 「うわあっ!!」 エリオが怯んだその一瞬で宗介は背後に回り、エリオを俯せに倒す。 そしてGRAW‐2を首筋に当てて気絶させ一言、 「訓練が足らんな。」 と言った。 その頃後衛組は、 ズガン! 「くっ、このままじゃ…」 クルツの狙撃により、身動きが取れないでいた。 二人は現在、物陰に隠れている状態である。 「キャロ、アイツの位置は?」 「だめです、特定出来ません。見つけてもすぐに場所を移されるんです。」 「ちぃっ…こうなったら!」 「悪ィけど、援護には行かせないぜ。子猫ちゃん達。」 クルツはビルの屋上から屋上へと転移魔法を使い、ポイントを移しながら狙撃を続けていた。 「ホントは女の子をイジメるのって嫌いなんだがな…ん?」 スコープを覗いていたクルツは眼下で起こった出来事に目を見張る。 そこには、ティアナのフェイクシルエットによる多数の幻影が、四方八方に飛び出すという光景があった。 「ワ~オ、美女大増量だぜ。でもね~ティアナちゃん、俺は偽物には興味ないのよ。M9。」 『はい、ウェーバー軍曹殿。』 「“妖精の目”を発動だ。」 『了解。“妖精の目”起動』 スコープの先に緑色の魔力フィルターが表れる。 そのフィルター越しにスコープを覗くと、多数の人型の魔力の中を移動するティアナとキャロの姿がはっきりと映っている。 「見つけたぜ子猫ちゃん。」 言うと同時にクルツは鈍色の魔力弾を発射する。 「キュウッ!」 「フリード!キャッ!?」 魔力弾が連続で命中し、落下するフリードとキャロ。 「嘘でしょ!?この数の幻影の中で本物を見つけるなんて…キャアッ!」 ティアナの頭部と胴体にも命中して、ティアナは倒れ伏した。」 「ハイ終わり、と。やっぱ良い気分はしねぇな…」 金髪碧眼の天才狙撃手は一人呟いた。 「クルツの方も終わったか。これで模擬戦は…」 宗介はそこまで言い、背後の殺気に気付く。 「ディバィィィン、バスタァァー!!」 いつの間にか復活していたスバルが、宗介に向けて魔力スフィアを撃ち出す。 しかし、その瞬間アーバレストの背面装甲が開き、放熱板が出て来る。 そして宗介の目前に迫った魔力スフィアは、発生した不可視の壁に遮られる。 「いっ!!?」 自身の全力の技を止められ、スバルは驚愕に目を見開く。 『ラムダ・ドライバ、正常に展開。』 「ふう…デバイスでの発動は初めてだったが、何とか上手くいったな。」 『肯定。私も作動を確認できて一安心です。』 「…お前がそれを言うか?」 『何しろこんな状態ですので。機能があるのは分かるのですが、発動するかどうかは疑問でした。』 「………」 ここでも漫才する一人と一機。 「相良さん、何なんですかそれ!?」 「アーバレストの特殊機能だ。魔法とはまた別のな。」 事も無げに言う宗介。 「特殊機能ってそんな、ズルイ!!」 「戦場でズルイもくそもあるか。今度こそ寝ていろ。」 ラムダ・ドライバの効果を魔力弾に付加し、発射する宗介。スバルは障壁で防ぐも、魔力弾は弾かれる事なく突き進み、遂には障壁を貫通、スバルはまたしても吹き飛ばされた。 「そ、そんなぁ~…」 スバルが目を回して完全にダウンした所で、この日の模擬戦は終了した。 「今日の訓練はここまで。後は皆しっかり休んでね。」 「ありがとうございましたぁ~…」 グロッキーとなった四人はふらついた足取りで宿舎へ戻っていく。 シャーリーにデバイスを預けその後を追う宗介だが、クルツに 「話がある。後でロビーに来い。」 と言われる。 「それで話とは何だ、クルツ?」 着替えを終え、ロビーにやって来た宗介。 「お前よ、今日一日ずーっとイラついたまま訓練してたろ?」 「…何を言って「とぼけるんじゃねぇ。」 宗介の言葉を遮るクルツ。 「ダテに長く相棒やってねぇよ。表情の変化くらい分かるさ。今のオメーは情緒不安定ですって面してるよ。」 自分の心情を言い当てられ、押黙る宗介。 「大方、元の世界になかなか戻れねぇ事に不満なんだろ?それと向こうの連中、特にカナメを気に してるって所か。」 宗介は自分が守ると言った、大切な女性を思い出す。 「ああ、お前の言う通りだ。」 「ったく、前にも言ったろ?オメーの悪い所は、マジメすぎて一人で戦争してる気になってる事だって。俺らがいなくなったからって簡単にやられる程ヤワな連中か、西太平洋戦隊は? それにカナメだって、お前がいなくなったからってダメになる娘じゃねぇだろ?」 その言葉に宗介ははっとする。 (そうだ、あの娘は千鳥かなめ。俺の事を信じてくれた娘だ。そんな彼女を俺が信じてやらないでどうするんだ。) 「じたばたしたって始まらねぇんだ。ここで俺達が出来る事を全てやる、それでいいじゃねぇか。今は彼女達が助けるべき“仲間”なんだしよ。」 「…そうだな。すまないクルツ、心配をかけたな。」 それを聞いたクルツはニカッと笑い、叫んだ。 「よ~し!!では青少年の悩みが解決した所でぇ、今日は飲むぞ、皆!!!」 「おーっ!!」(×11)物陰から突然出て来たはやてとシャマルを含むフォワードメンバーに、宗介はギクリとする。 「なっ…!」 「相良君には黙っとったけどな、今日は二人の歓迎会するんや。相良君普通に言っても驚きそうに見えへんかったからなぁ~。」 「にゃはは、悩んだままお祝いしてもつまらないから、終わった後でって事で隠れてたんだ。」 「レクリエーションルームに準備してあるんですよ。早く行きましょう。」 「カナメさんて人の事、詳しく聞かせてもらいますからね~。」 スバルとティアナに両脇から押さえられ、呆然としたまま強制連行される宗介だった。 尚、この後の歓迎会で、はやてが酔って服を脱ぎ始めたとか、クルツがそれを手伝おうとしてヴォルケンズにボコボコにされたとか、スバル達に無理やり酒を飲まされた宗介がヤバイ事になったとか、色々とあったのだが、それはまた別のお話。 続く 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/doadimensions/pages/17.html
対戦時のキャラクターのコスチューム アーケードやタッグチャレンジをクリアすると増えてゆく(ただし基本数はキャラクター毎に違う)。 Wi-Fiコネクションでインターネット接続していれば、いつの間に通信によって配信限定のコスが追加される。 (COS=COSTUME、DL=DOWNLOAD、太字=本作初登場) キャラクター COS 01 C 02 C 03 C 04 C 05 DL 01 D 02 D 03 かすみ 和装束(青) 和装束(白) 和装束(緑) セーラー服(白) - 私服(ピンク) 迷彩ビキニ 和装束(金黒) ハヤブサ ボディスーツ(黒) 和洋鎧 燕尾服 - - 軽甲冑 ティナ スター衣装 カウガール 猫耳ボンデージ(黒) - - 猫耳ボンデージ(白) 私服(赤×白) ザック ダウンベスト ダウンベスト(黄) 宇宙人 オプーナ - ドレッドヘア ジャン・リー ズボン(茶) トラックスーツ ズボン(青) - - 拳法着(黒×黄) レイファン チャイナドレス(赤) チャイナドレス(白) 私服(パンダ) ボンデージドレス - 私服(オレンジ) 拳法着(赤×白) ショートパンツ(黒) バイマン ベレー帽(赤) 戦闘服 ベレー帽(緑) - - 潜水服 ゲン・フー 虎縞(黒) かぶり笠 虎縞(白) - - 拳法着(白) あやね 忍装束(紫) 和装束(黒) ジャージ 忍装束(黒) 私服(黒×白) 和装束(蝶) 鎖帷子 夏ブレザー バース サングラス リングコス(羽) リングコス(棘) - - バイキング エレナ ライダースーツ(青) 舞台衣装 ライダースーツ(茶) パーティドレス - 蒼魔灯 衣装(赤) アイン 私服 空手衣 脱獄風 - - 私服(Yシャツ) レオン バンダナ 私服(赤) 私服(黒) - - 剣闘士 ヒトミ 私服(黒) ジージャン 空手衣 ウェイトレス - 私服(緑) セーラー服 ロリータドレス(青) クリスティ ボディスーツ 私服(赤) 執事服 - - レザージャケット 闘姫伝承 ハヤテ 忍装束(白) 和洋鎧 燕尾服 - - 軽甲冑 ブラッド 拳法着(青) 私服 拳法着(緑) - - スーツ こころ 着物(ピンク) 祭り衣装 吊りスカート制服 - - 私服(シトロン) 拳法着(ピンク) メガネ私服 マリポーサ リングコス 仮面舞踏会 白衣 - - 猫耳ボンデージ(白) 烏マスク(緑) エリオット 拳法着(青) 拳法着(黒) セーラー服 - - ブレザー制服 ライドウ 和装束 和装束(黄) 和装束(白髪) - - カスミα 忍装束 忍装束(黒) 忍装束(白) - - 天狗 山伏 山伏(白) 山伏(黒) - - 幻羅 甲冑 甲冑(黒) 甲冑(金) - - Alpha-152 緑色 ピンク色 青色 - - 紫電 和装束 和装束(紫) 和装束(黒) - -
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2249.html
「いらっしゃいませ。ようこそ―――っ!?」 ホテル<アグスタ>の受付に差し出された招待状代わりの身分証明書を眼にした瞬間、男の営業スマイルは崩れ去った。 今日、このホテルで行われるオークションには各界の著名な資産家達が参加しているが、それらとはまた別の方面に名高い人物が目の前に現れたのだ。 畏怖すら含む視線を持ち上げれば、見た目麗しい三人の美少女が佇んでいる。 「こんにちわ、機動六課です」 なのは、フェイトと共に煌びやかなパーティードレスで完全武装。 プライベートでは女を捨てている我らが部隊長は、清楚な令嬢へと変身を遂げて、完璧な笑顔を作って見せたのだった。 機動六課。今回の任務は、このオークションの護衛である―――。 受付から少し離れたロビーの一角で、はやて達三人の隊長陣は一般参加者を装いながら会話を交わしていた。 「それじゃあ、オークションが始まるまでの間に営業済ませとこか」 「うん? 建物の下調べのことだよね」 はやての妙な物言いに、少々戸惑いながらもなのはが合わせた。 しかし、その返答にはやてはチッチッチッと指を振る。 「それもあるけど、メインは文字通りの<営業>やな」 「え、他に何かあるの?」 「この場にはあらゆる界隈の資産家が集まっとるんやで? しっかり愛想振り撒いて、各々のアイドル性をアピールして来ぃ! 接待営業や!」 「「ぇえ゛っ!?」」 サムズアップして衝撃の事実を告げた部隊長に対し、二人の隊長は顔を引き攣らせた。 なんという無茶な命令。なのはとフェイトの心境は、不落の要塞の攻略命令を下された少数部隊の指揮官に等しい。 「は、はやてちゃん……それ本気?」 「機動六課が実験部隊なのは十分理解しとるやろ? 色々目ぇ付けられとるし、まだまだ立場も安定せん。こういった場所で、有力な権力者に覚えを良くとしといて損はないよ」 「でも、そんなのどうすればいいか……」 「深く考えんでええよ、フェイトちゃん。普段通り、無自覚なセックスアピールで成金中年の視線を惹き付ければええんや」 「ナニいい笑顔で酷いこと言っちゃってるのはやてちゃん!?」 「無自覚……アピール……」 予想もしない親友の発言を受けて、ショックで放心するフェイトの代わりになのはが食って掛かる。 「確かにフェイトちゃんは子供の頃から露出癖があったけど、最近はソニックフォームも自重してるし、バリアジャケットのデザインも落ちついてるんだよ!? もう弾けてはいられない歳なんだよ!」 「露出癖……弾け……」 「いや、でももう染み付いたM属性は変えられんやろ? 実は局員の極秘アンケートで、人気ナンバー1なんやで。性的な意味で」 「えむ……性的……」 二人の親友が抱いていた自分へのイメージが次々と明かされ、どんどん精神的なドツボに落ちていくフェイト。 なのはが我に返って自分の発言を省みる頃には、仲良し三人組の中でも何かとワリを食うことが多い彼女はかつての暗黒時代を髣髴とさせる虚ろな表情を浮かべて何かブツブツ呟いていた。 慌ててフォローするなのはを無視して、はやてはあくまで世知辛い会話を進めていく。 「まず第一にスマイル。適当な相手見つけたら、軽く挨拶だけでもしとくんやで? ターゲットは夫婦連れ以外がええな。私らの顔はメディアで割れとるんやから、機動六課やってことを隠す必要はない。むしろガンガンアピールしとくんや!」 「まるでキャバクラだよ、はやてちゃん……」 「まあ、それに近いな。折角こんな肩丸出しの派手なドレス用意したんやから、有効に使うように」 「<何>を?」 「胸とか尻を。少しくらいセクハラされても騒いだらあかんで?」 「……ううっ、これも隊長の務めなんだね。スバルやティアナ達に、こんな辛い役割押し付けるわけにはいかないもんね」 涙を呑んで耐え忍びながら、なのはは大人の厳しさを受け入れていた。 華やかな魔法少女の活躍の裏側で展開されるドラマ。それがここにはある。 葛藤するなのはの肩を、虚ろな眼をしたフェイトが励ますように叩いた。 「なのは、耐えよう? 私も結構セクハラはされてきたけど、我慢出来たよ」 「って、フェイトちゃん本当にセクハラされてたの!?」 「二度目の執務官試験に落ちた時、試験官の人にホテルに誘われた時は本気でヤバイと思ったよ……フフッ」 「クソ! なんて時代だ……っ!」 「ごめん、フェイトちゃん。さっきの発言は迂闊やった。そんな管理局の裏話があったとは思わんかったわ」 そして、フェイトのダークサイドは意外と深かった。 なのははもちろん、はやてすらも大人としての汚れた階段を昇って成長した瞬間だった。 ―――やがてフェイトも普段の調子を取り戻し、ホテルに配置した副隊長達や新人達への指示を話し合う真面目な会話が続き、そして終わる頃。 「い、いらっしゃいませっ!!」 明らかに音量と緊張感を増した受付の声が、異様なほど広くロビーに響き渡った。 その声にはやて達が視線を移せば、受付の男はもとより、周囲の従業員が総立ちで整列して頭を下げている。 そして、そんな彼らの奇行に対しても、周囲のオークション参加客達は騒ぐこともせず、ただ息を呑んで沈黙するだけだった。 萎縮するような静寂と緊張の中心に立つ一人の男を、はやて達三人は捉える。 「本日は、当ホテルにお越しいただき、まことに……」 震えを隠せぬ声を必死に搾り出す従業員を、いっそ憐れに思えるほど全く気にも留めず、その男は受付を素通りした。 その後に付き従うように、二人の護衛が続く。いずれも女だった。 「あれは……」 「参加者の中でも一番の大物やね。今回のオークションでは、高価な私物も幾つか出品してるとか」 身に纏った純白のスーツと肩に引っ掛けるようにした羽織ったコート。いずれも惜しみなく金をかけた高級品だったが、それらはあくまで男を飾る物でしかない。 周囲の人間を萎縮させているものは彼の持つ権威であり、スーツを押し上げる屈強な肉体とその全身から立ち昇る圧倒的な<強者の威厳>であった。 「<アリウス>―――大企業ウロボロス社の経営者であり、管理局認可の単独魔導師でもある男や」 あらゆる意味での<力>を備えた、凶相とも言えるアリウスの顔を見据え、自然と強張った表情ではやては呟いた。 紛れも無い重要人物であり、このホテルの人間全ての護衛を任とする機動六課にとっても留意すべき人物である。 しかしその雰囲気や、周囲の人間を気にも留めていない不遜な態度も含めて、三人の彼への印象は共通して厳しいものとなっていた。 ロビーを横切るように歩みを進めるアリウスは、自然と三人の横をすれ違う形になる。 そこでようやく、前を見据えていた彼の視線が動いた。 「―――ほう」 アリウスの視線が捉えたのはフェイトだった。 しかし、それは決して友好的なものではない。 浮かべたのは文字通りの冷笑。向ける視線の意味は僅かな興味であり、同時にそれは人間に向けるようなものではなく、まるで珍しい動物に向けるそれであった。 「……何か?」 警戒と共に身構えたくなるような気分で、フェイトは硬い声を絞り出した。 「貴様は、<テスタロッサ>か」 「そう、ですが」 アリウスが何故<フェイト>でも<ハラオウン>でもなく、<テスタロッサ>というミドルネームを呼んだのか、三人にはその真意が分からなかった。 ただ、嘲るような口調は確実に悪意を孕んでいる。 「そうか、お前『も』か。初めて見たな。興味深い」 「……何の話でしょうか?」 「なぁに、少々気になったのだよ」 訝しげなフェイトの表情を楽しむように鑑賞しながら、アリウスは懐から葉巻を取り出した。 風紀の類が徹底管理されているミッドチルダではあまり見ない嗜好品の類だ。 それらの仕草が一連の流れであるように、背後に就いた護衛の一人が動いて、淀み無く火を付ける。ライターではなく指先から生み出した火種によって。 魔法だ。 三人の眼には、その何でもない魔法がやけに印象強く残った。 その服装から背格好まで全く同じで、顔の半分をやはり同じデザインの奇怪な仮面で隠した二人の護衛の異様さと共に。 「―――君と私の部下、どちらの<性能>が上なのかと思ってね」 背後の護衛二人からフェイトへ、意味ありげに視線を往復させてアリウスは愉快そうに呟いた。 結局、その真意を問い質す前に、物言いに不快感を露わにする三人を無視してアリウスはオークションの会場へと歩き去っていった。 「なんというか……あの人、わたしは少し苦手かな」 「素直に腹立つって言ってええよ。フェイトちゃん、大丈夫?」 「うん、気にしてないよ」 案じるはやてに対してフェイトは笑って答えて見せたが、好色な視線とは違うアリウスの瞳を思い出して、僅かに背筋が震えた。 あの男は、自分を―――。 「大物には違いないんやけどな、黒い噂も絶えん人物や。管理局でも、一度違法魔導師として逮捕命令が下ったことがあるそうやし……結局、誤認やったらしいけど」 「そんな地位の相手に逮捕段階まで行っておいて、誤認で終わったの?」 「少なくとも事件の記録は、証拠不十分と実際に動いた部隊の先走りで終結しとる」 「……変に勘繰りたくはないけど」 「やっぱり、裏で色々動いとるやろうなぁ」 金とか権力とか―――。 はやては言葉の後半を自重して飲み込んだ。どれほど黒に近くとも、実際に口にしていい相手ではない。 「まあ、いずれにせよ私らには色んな意味で遠い人物や。注意だけ払って、下手に近づかん方がええよ」 「そうだね」 資産家には色々な種類の人間がいる。それを理解する程度には、なのはもはやても社会での経験は積んできた。 不快感を義務感で押し留め、はやてとなのはは振り切るようにアリウスが去って行った方向から背を向けた。 ただ一人、フェイトだけがもう見えなくなったアリウスと二人の護衛の後ろ姿を見据え続けていた。 「気のせい、かな?」 なのはとはやてにも聞こえない小さな呟きは、僅かな疑念を含み。 本当に気のせいだったのだろうか。 あの時、アリウスと二人の護衛が自分の前を横切った時―――右手の傷が疼いたような気がした。 魔法少女リリカルなのはStylish 第十二話『Black Magic』 ホテル<アグスタ>の地下駐車場の奥には、参加者の車両からは離れてオークション用の商品を積んだ輸送車が並んでいた。 大小様々なサイズのコンテナを搬入口から運び込んでいく。 その中でも成人男性でも入れそうなほど一際巨大なコンテナを、作業員が開いていた。 ウロボロス社のロゴが刻印されたコンテナから引き出された物を見て、作業員の一人が思わず小さな悲鳴を上げた。 「何ビビってんだよ」 「だ、だってよ……」 「仕方ないさ。こんな薄気味悪い物までオークションにかけようなんてよ」 コンテナの中に納まっていた物―――それは人形だった。 小さく折り畳まれてコンテナに入っていたものの、両肩を吊って持ち上げれば、力なく垂れ下がった両脚を含めて2メートル以上の全長を持つ巨大な操り人形だ。 風化した枯れ木のような骨組みで構成され、その上にボロボロの衣装を纏った姿は確かに年代を感じさせるが、それ以上に生々しい気配を放っている。 まるで人骨で作られているかのように錯覚する全容は、薄暗い地下で見るにはあまりに不気味だった。 「ウロボロス社の会長の私物だろ? いい趣味してるよな」 「コイツはサンプルとして会場に持ってくらしいけどよ、実際には同じようなのを30体くらい出展するらしいぜ」 そう言ってトレーラーの中を指差した仲間に促されて覗き込めば、同じサイズのコンテナが10以上積み込まれていた。 それら全ての中に、この不気味な人形と同じ物が折り畳まれて入っていることを想像すると、全身が総毛立つ。 「こんな不気味な物、欲しがる変態がいるのかよ?」 「金持ちの考えることは庶民にゃ分からんね」 「おい、さっき別のトレーラーで同じウロボロス社のコンテナの搬入手伝ったけどよ、そっちも錆びた処刑刀だの染みだらけのボロ布だのがギッシリ詰まってたぜ」 「ホラー映画でも作ってるのかよ、あの会社は」 物が物だけに談笑といえるほど明るい雰囲気にもなれず、ぼやくように会話をしながら彼らは出展用のハンガーへ人形を固定していく。 言葉を絶やさないのは、彼らの無意識に巣食う不安と恐怖を表しているようだった。 馬鹿げたことだと冗談のように内心の思いを笑っても、考えずにはいられない。 雑談を止め、辺りに沈黙が戻れば、その懸念が現実のものとなりそうな不安を、彼らは消すことが出来なかった。 ふと、その人形の精巧に彫られた虚ろな顔を見てしまった瞬間に子供のような恐れが湧き上がる。 まるで、本当に今にも動き出しそうに思えて―――。 「オークション開始まで、あとどのくらい?」 《Three hours and twenty-seven minutes.(3時間27分です)》 バッグのアクセサリとして待機モードでぶら下がっていたバルディッシュの答えを聞き、フェイトはロビーの吹き抜けを見下ろした。 事前の構造図も含め、既に現場の下見はほとんど終わっている。 オークションの会場となるホールから始め、出入り口や裏口などへ続くルートを歩いて確認しながら、フェイトははやての言う<営業>もなんとかこなしていた。 すれ違う客に社交辞令のスマイルと挨拶を無料で振り撒いていく。 時折向けられる男性の好色を含んだ視線も慣れたものだった。 しかし、そういった視線を自覚する度にロビーで向けられた全く種類の違う好奇の視線を思い出す。 アリウスがフェイトに向けた視線の意味。 あの冷たくも粘度を持った視線の意味を察すれば、背筋に寒気が走り抜ける。 アレは、人を見る眼ではない。まるで芸術家の作品を鑑定するかのような瞳だった。 あの時あの男は、自分を人間として見ていなかった。 「ひょっとしたら、私の事を―――」 知っているのだろうか? この身が、純血の人間では無いと。 10年前に決着を着けたはずの『自分に対する不安』が思い出したように頭をもたげてくる。 それを不屈の精神で抑えようとして、故に気付かなかった。自身の根幹に根差すこの不安を消すことなど出来ないのだということを。 生まれた瞬間に定められた運命は、死ぬ瞬間まで消えはしない。 友情や決意の中で薄れていったその重みを、ふとした時に思い出すのは決して避けられないことなのだと、フェイトは認めることが出来なかった。 そうして、己の思考に没頭して歩くうちに人気の無いホテルの裏口まで着いてしまう。 我に返ったフェイトは慌てて意味もなく辺りを見回した。 「迷子かい、お嬢さん?」 まるで自分の動揺を見透かしたかのように唐突に声を掛けられて、フェイトは思わず背筋をピンと伸ばした。 何も後ろめたいことなど無い筈なのに無意識に恐る恐る振り返れば、男が一人立っている。 貴族然とした紫色のスーツとコートを来た姿は警備員などではない。表情も微笑を浮かべ、リラックスしている。 それらを確認して、フェイトは内心で安堵のため息を吐いていた。 「はい。オークションの会場に行きたいんですけど、迷ってしまって」 「それでこんな所まで? 方向音痴なお嬢さんだな」 淀みなく言い訳を口にして、男もまた嫌味の無い笑い方で答える。 好感の持てる穏やかな物腰に、フェイトも思わず微笑みを浮かべていた。 男の口調は若さを感じさせる軽快なものだったが、どこぞの貴公子とも思える秀麗な姿はギャップがあって、奇妙なユーモアを感じさせた。 見事な銀髪を後ろに撫で付け、左目に嵌めた片眼鏡(モノクル)は黙っていれば随分と年上の印象を与える。 あのアリウスとは全く違う意味で人の目を惹き付ける男だった。もちろん良い意味でだ。 「だが、こんな見た目麗しいお姫様を放ってはおけないな。アンタには、こんな人気の無い場所よりダンスホールの真ん中を陣取ってた方が似合ってる」 大げさなようでいて決してお世辞の意味など含んでいない台詞を吐き、男はダンスに誘うように手を差し出した。 「壁の花にするには勿体無いぜ。よければ、俺にエスコートさせてもらえないか? お嬢さん(レディ)」 そう言ってウィンクする男の仕草は芝居染みたものなのに、ビックリするほど様になっていた。 妖艶な色気すら感じる仕草と言葉を前に、フェイトは頬が熱くなるのを感じながらも、これまで出会ったことの無いタイプの相手に対して魅力を感じてしまう。 「―――宜しいですか、紳士さん(ジェントル)」 そしてこちらも全ての男を虜にしてしまいそうな蟲惑的な笑みを無自覚に浮かべると、そっと手を差し出した。 手と手が触れた瞬間、フェイトの持つ傷が一瞬疼いた。 しかし、そこに伴う痛みは苦痛などではなく、何処か甘美なものだと錯覚すらしてしまう。それを痛みだと気付かせないほどに。 そうして歩いていく浮世離れした美男美女の二人を、すれ違う者達全てが羨むように見ていた。 オークション会場となるホールを見渡していたはやてとなのはの下へ男連れで戻ってきたフェイトに対する二人の驚きは、もちろん大きかった。 「……え? 何コレ? え、職務中に男引っ掛けて来よったよこの娘。え、ナニソレ? それは出会いの無い私への当てつけ?」 「はやてちゃん、さりげなく錯乱しないで」 何故か予想以上のショックを受けるはやてをなのはが正気に戻し、改めて苦笑を浮かべるフェイトと傍らの男に向き合った。 「ええと、フェイトちゃん。こちらの方は?」 「『迷って』裏口まで行っちゃってたところを助けてもらったんだよ」 なのはに目配せして、フェイトは口裏を合わせる意図を伝えた。 別に<機動六課>であることを隠す必要はないが、客の中に溶け込んで護衛をする以上、必要以上に身分を明かすこともない。 何より、彼の自然と心を許してしまう気安い物腰が、何となく『仕事を挟んだ付き合いでいたくない』という気分にさせていた。 まるでリズムを感じるような男とのやりとりが、名前すら交わしていないことを気付かせないほど心地良いと思えるからかもしれない。 会釈するはやてとなのはを見つめ、男は感嘆のため息を漏らして頷いた。 「驚いたね、美人の友達はやっぱり美人ってワケだ」 「お上手ですね」 「生憎とお世辞は苦手でね。綺麗な女を褒める時は、本音で語るのが一番さ」 「そこまでストレートに言われたのは初めて、かな」 「オークションなんて辛気臭いもの止めて、ダンスパーティーにするべきだな。是非踊ってみたいね」 「場所さえ改めれば、わたしも喜んで」 男となのはの間でリズミカルに言葉が投げ交わされる。 なのはにとっては慣れた社交辞令なのに、何処か小気味のよい会話だった。 話す事が上手いのだろう。気障な台詞や比喩を嫌味無く言えて、しかもそれが似合ってしまう。ある種の才能を持った男なのだと思った。 フェイトが感じたものと同じ新鮮さを、なのはもまた感じている。 その一方で、こういった会話を一番テンション高く楽しみそうなはやては、出会った時からずっと沈黙を保ったまま男の顔を見つめていた。 「そちらのお嬢さん。俺があんまりいい男だからって、そんなに見つめるなよ。穴が空きそうだ」 「―――あのぉ、何処かで会ったことありませんか?」 「おっと、まさか女性の方から口説かれるとは思わなかったぜ」 ナンパの常套手段とも言える台詞に対して男は苦笑して見せたが、はやては真剣な眼差しのまま答えを待っていた。 それに気付いた男は肩を竦めると、首を横に振って返す。 「いいや。残念だが、アンタと会ったことは『無い』な」 「そうですか……いや、でも確かにこんなええ男と会ったんなら例え10年前でもしっかり覚えてるはずやしな」 「ハハッ、なかなか正直に言ってくれるじゃねえか」 「そしてもちろん、私みたいな美少女を見て、忘れるはずもないですしね?」 「ああ、全く同感だね」 神妙に頷く男とはやては再び視線を合わせ、やがて堪えられなくなったように二人して笑い出した。 やはり、二人のテンションの高さは奇妙なシンパシーを得るに至ったらしい。 酷く自然なこの組み合わせを、なのはとフェイトは苦笑しながら傍で見守っていた。 放っておけば、このまま四人で飲みにも行けそうな和気藹々とした雰囲気だったが、生憎とはやて達三人には職務がある。 「―――さて、このまま潤いのある会話を続けたいところだが、ちょいと野暮用があるんでね。オークションもそろそろ始まる時間だ」 それをまるで察しているかのように、男がキリのいい所で談笑を切り上げた。 「貴方もオークションに参加するんですか?」 「いや、付き人みたいなもんだな。会場にはいるつもりだが」 「うーん、贅沢な付き人やなぁ。その雇い主さんは、ええ趣味してますね」 「俺もこういうのは苦手なんだがね。オークションが終わったら、今度は私的な再会を是非望みたいな」 「私もです―――それじゃあ」 「ああ、またな」 今度は社交辞令などではない、僅かな名残惜しささえ見せて、フェイト達はその男と別れた。 気が付けばお互いの名前さえ知らなかった。 それを後悔しながらも、切欠を思い出せば別段不思議ではないささやかな出会い。 しかし、それは三人にとってやけに印象に残る出会いだった。 知らぬうちに、三人が同じ再会を願う程に。 そしてそれは、すぐに現実の事となる。 三人の美女と別れたダンテは、この不本意な依頼に対して少しだけやる気を取り戻していた。 ホテルを徘徊する人間は、やはりダンテにとってあまり好かないタイプの成金ばかりだったが、幾つか気に入ったこともある。 まず第一に、レナードの用意した<仕事着>だった。 紫を貴重とした貴族のような服は彼の好むロックなデザインとは程遠かったが、黒だの白だののタキシードなどよりはるかにマシだ。コートのデザインも悪くない。 レナードに言わせれば、これでも仮装パーティーさながらの派手な格好らしいが、それを着こなすセンスと自負がダンテにはあった。 第二に、なかなか魅力的な出会いがあったことだ。 間違っても深窓の令嬢が訪れるはずもない俗物の集いだと思っていただけに、裏口で美麗な女性と遭遇した時は一瞬何かの罠かと錯覚するほどの衝撃を受けた。 思わず声を掛けて、建物の下見をしてこんな人気の無い場所を徘徊していた自分は随分怪しいのではないかと我に返った時にはもう遅い。 迷子のふりでもするか? と悩む傍で相手が似たような返答を返す。 自分のことを棚に上げて、そんな彼女がまともな令嬢などではないのだろうと疑ったが、しかしそれこそダンテにとってはどうでもいいことだった。 若い女。しかもそれが類稀なる美人となったら、無条件で味方をするのが男というものだ。 女性としては高い身長に、プロポーションもバッチリ。何より、あの長い髪がいい。金髪(ブロンド)は好みだ。 そんな彼女と連れ立って向かった先でも更に二人の美女と出会えた。 今回は珍しくワリの良い仕事ではないか? あのケチな情報屋の手引きを柄にもなく感謝してしまいそうになる。 そして何より、第三に―――。 「退屈な時間になるかと思ったが、なかなかどうして……胸糞悪い空気が漂ってるぜ」 ダンテの持つ第六感が、慣れ親しんだ警鐘を鳴らしていた。 ロビーのシャンデリアと窓からの太陽光が明るく照らし、穏やかな静寂が満ちるこのホテルで、おおよそ想像もつかないような悪夢が生まれることを予見できる。 この場にいる人間達の中でただ一人、ダンテだけがそれを感じていた。 このホテルに潜む、複数の<悪魔>が放つ微細な気配を。 「観客が多すぎるな。派手なダンスパーティーになりそうだ……」 確信にも近い、地獄の幕開けを予感しながら、それをただぼんやりと幻視するだけで留める。 自分は預言者ではない。勘だけで危険を予感し、それをあらかじめ警告したところで執りあう者などいるだろうか? <悪魔>などと騒ぐだけで狂人を見るような眼を向けるのだ。 人間は自分の理解の及ばないものを受け入れようとしない。見ることすら耐えられず、知ることにも恐怖する。 ならば、彼らが<悪魔>の存在を認める時は現実にそれが降り立った時だけなのだ。 ダンテは自分か、あるいはそれ以外かを嘲笑するように鼻を鳴らし、静かにオークション開始直前となった会場へと足を踏み入れて行った。 最後の参加者の入室を確認し、静かにホールへのドアが閉まっていく。 やがて、最後の扉が閉まり―――舞台開始の合図が鳴った。 人口の密集する喧騒を避け、豊かな自然の中に建てられたホテル<アグスタ>は周辺を森林に囲まれている。 車の通りが少ない車道を越えて、ホテルの一角を僅かに見上げられる程離れた場所に、その三人は佇んでいた。 「あそこか……」 「本当に、手を貸すの?」 一際大柄で服の上からでもその屈強な肉体が分かる男と、その男ほどではないにしろ長身で美しく若い女。そして、額に刻印を刻まれた少女。 親子とも連れ合いとも思えない奇妙な三人組が、人気の無い森の中で息を潜めるようにフードを被ってホテルの様子を伺う姿もまた奇妙極まりない。 「アナタの探し物は、ここには無いんでしょう?」 男と同じ鋭い視線を目的の場所へ向けていた女は、自分の左手を掴む小さな少女へ柔らかく問い掛ける。 少女はフードを取り、女を見上げて小さく頷いた。 悲しいことに、無垢なその顔にはおおよそ表情と呼べるものが浮かばない。 少女が年相応の反応を失って長い。少なくとも、その女の知る限りは。 「ゼスト」 気を取り直すように、女は傍らの男の名を呼んだ。 心得たようにゼストは頷く。 「ルーテシアは、何か気になるらしい。この子の感性は独特だ。無視は出来ない」 不満げな女を宥めるように説明すれば、合わせて少女―――ルーテシアもまたもう一度頷いて見せる。 目元をフードで、口元を襟で隠した女は、小さなため息で自身の納得と諦めを表現した。 「―――ルーテシアが自発的に動きたいなら、構わない。いくらでも付き合う。 でも、今回の事にあのマッドサイエンティストの余計な入れ知恵や小ズルイ催促はなかったの?」 「それは……」 自然と剣呑になる女の問いに答えようとゼストが口を開いた時、丁度話題の中心となる人物から通信が繋がった。 三人の眼前にホログラムのモニターが出現し、そこに映った人物を見て、少なくとも二人が不快感と警戒を露わにする。 一方は厳つい顔を更に引き締め、もう一方は柳眉を鋭く吊り上げることで。 『ごきげんよう。騎士ゼスト、ルーテシア、そして―――』 通信先の人間―――スカリエッティが自分の名前を呼ぶ前に、女は無言で顔を背け、背まで向けた。 拒絶を超えた敵意故にであった。 取り付くしまもない仕草に、スカリエッティは愉快そうに忍び笑いを漏らす。 「ごきげんよう」 「何の用だ?」 相手にもしない一人に代わって、残りの二人が抑揚の無い声と素っ気の無い声で応える。 『彼女も君も冷たいねぇ。随分と嫌われてしまったものだ』 「さっさと用件を言え。その彼女の機嫌はお前の話が長引く度に悪くなっていく。モニター越しに斬られたくはないだろう」 『ははっ、本当に在り得そうで恐ろしいなぁ』 この不穏な会話を、スカリエッティだけが純粋に楽しんでいた。 苛立ちも悪態も見せず、全くの無反応を貫く女の背中を一瞥して、彼はようやく観念したかのように本題を切り出した。 『事前の打ち合わせ通り―――そろそろ行動開始の時間だ』 意味深げなスカリエッティの台詞を聞き、ゼストはもう一度ホテルに視線を向けた。 変わらぬ姿で、そこは静寂を保っている。 「もうホテルの襲撃は始まっているのか?」 『確認は出来ないが<彼>はもう内部に入っているし、今は丁度オークション開始予定時間だ』 「協力する相手と連絡すらまともに出来ていないのか」 『<あの男>とはあくまで利害関係による繋がりだからねぇ。申し訳ないが、今回我々は受身だ。 内部で動きがあると同時に、こちらもガジェットを向かわせる。後は―――分かるね? ルーテシア』 「うん、分かった」 『良い子だ』 自分ではなく、あくまでルーテシアに話を振って了承を得ようとするスカリエッティの小賢しさに、ゼストは不快感を隠せなかった。 この男は、ルーテシアの意見を自分と彼女が無碍に出来ないことを理解して、そこに漬け込んでくる。 何よりも厄介なのは、このどれほど疑っても足りない胡散臭さを形にしたような狂人を、ルーテシアが意外と好ましく思っているという事だった。 今のゼストが抱く感情は、娘が軽薄な男と付き合いながらもそれを説得して止める術を知らない親が持つ苛立ちに酷似している。 そして、そこに殺意を加えたものが、背後の彼女がスカリエッティに抱く感情だ。 「……今回は特別だ。現場にも近づかない。 我々とは、レリックが絡まぬかぎり互いに不可侵を守ると決めたことを忘れるな」 せめてもの抵抗として、ゼストはモニターの先の薄ら笑いを睨みつけながら釘を刺した。 『ああ、もちろんだとも。それを踏まえて、ルーテシアの優しさには深く感謝しよう。 ありがとう。今度是非、お茶とお菓子でも奢らせてくれ。もちろん、他の二人も―――』 「話は終わりだ。消えろ」 高速の一閃が、文字通りスカリエッティの台詞を途中で寸断した。 空中に照射されていたホログラムを、電子的な手順を踏まずに鋼の一撃によって真っ二つに切り裂く。モニターを形成していた粒子が霧散し、通信は『消滅』した。 ルーテシアでなければゼストの仕業でもない。 思わず二人が振り返れば、そこには変わらず背を向けたまま佇む女の姿がある。 一体、何をどうやったのかは分からない。しかし、会話を切り上げた冷たい声は間違いなく彼女のものだった。 「……<ルシア>」 僅かに咎めるような感情を含み、ルーテシアは彼女の名前を呼んだ。 ルシアは苛立ちに任せるように、フードを取り払う。 そして美しい肉体に吊り合った美貌が姿を現した。 燃えるような赤い髪を一房の三つ編みにして肩から前へ垂らし、褐色の肌を持つしなやかな女戦士は、少女の抗議に対して小さく鼻を鳴らして見せる。 「いつまでも長々と話してるからよ。あの男の会話の7割は無駄話なんだから」 「だからって斬らないで。<アスクレピオス>の通信機能が壊れる」 「ゴメンなさい。でも、アナタの為でもあるのよ」 「わたしは、ドクターとお話しするの、そんなに嫌いじゃないから」 「ああ、ルーテシア。アナタの男の趣味だけが将来の不安だわ」 「どういうこと?」 決して穏やかではないが、ルシアのルーテシアに対する態度は先ほどのスカリエッティに対するそれと比べて全然柔らかい。 まるで妹に接する世話焼きの姉のようだ。 事実、ゼストの知る限り二人の関係は<姉妹>が一番近い表現であった。 普段は女である前に戦士であろうとするルシアの物腰の変化も、これでは苦笑を浮かべずにはいられない。 険悪なやりとりの後で、束の間穏やかな空気が三人の間に流れていた。 「……それじゃあ、そろそろ始める」 しかし穏やかな時間はすぐに終わり、憂鬱な時間が始まる。 少なくともゼストとルシアにとって、この少女が自らが行おうとしている所業に何の感慨も感じないまま闇に手を染めるのは憂鬱以外のなにものでもない。 コートを脱いだルーテシアは両腕のグローブ型デバイス<アスクレピオス>を起動させる。 「吾は乞う、小さき者―――<群れる者>」 ルーテシアの囁く詠唱に呼応して、足元に闇が生まれた。 それは比喩などではなく、滲むように広がる虚ろな黒い染みだった。 ベルカ式でもミッドチルダ式でもない。はっきりとした術式すらなく、故に魔方陣さえ発生しない。魔法の<行使>というより<現象>のような出来事。 文字通りの<黒い魔法>は、人におぞましさを与える光景を、少女を中心にして繰り広げる。 「言の葉に応え、我が命を果たせ。召喚―――」 ルーテシアを中心に広がった、暗黒の湖畔から湧き出るように奇妙な煙が立ち昇った。 目を凝らせば、それらが微細な黒い粒の集合によって形成された煙だった。 「<スケアクロウ>」 そして、その粒の一つ一つが肉眼ではハッキリと確認出来ないほど小さな未知の甲虫であった。 無数の虫が群れ、煙や霧としか認識できない黒い塊となって甲虫は動き始める。 地を這い、空を舞い、何かが擦れるような無数の奇怪な音を波立ててソレは移動していった。 真っ直ぐに、ルーテシアの視線の先―――ホテル<アグスタ>へと向けて。 「……ゼスト。ルーテシアをお願い」 人が扱ってはならない禁忌の魔法を目にしていた二人のうち、おもむろにルシアが告げた。 口元を隠し、再びフードを被り直して、トランス状態で魔法を行使するルーテシアの横顔を一瞥する。 その視線には、先ほどまでの純粋な暖かさは無い。複雑な迷いを含んだ感情が渦巻いていた。 「行くのか」 「戦闘の混乱の中で目標物を奪うのが目的なら、戦いは見せかけだけでいい。人死には極力避けたい」 「そうだな……会場内部には手を出すな。そこから先は、警備と運に任せておけ」 「私もそこまで善人じゃない」 ルシアは剣呑な視線と冷笑を浮かべて見せた。 しかし、彼女の心に冷酷な犯罪者とは無縁な正義の心と見知らぬ他人であってもその死を悼む優しさがあることを、ゼストは知っている。 そして何よりルシアとゼストの二人には、幼いルーテシアが無自覚に人を傷つけ、殺すことを防ぎたいという意思があった。 彼女が呼び出し、使役する存在は嬉々として人の命を飲み込むのだ。 奴らが生み出す闇に、何も知らぬ少女まで引き摺り込ませるわけにはいかない。 いずれ彼女が本当の人生を取り戻し、自らの罪を自覚した時に、その重みが少しでも軽くなるように。 「それに―――」 言い淀み、ルシアはルーテシアの足元に広がる闇の世界へと繋がる扉を見下ろした。 「私にとって、やっぱり<悪魔>は敵だ」 完全な敵意を吐き出して、ルシアは走り去っていった。 戦場となる場所へ駆けつける戦士の背中をゼストはいつまでも見送り続ける。 ルシアとは別に、彼の中にも複雑な想いが宿っていた。 ルーテシアとルシアも含む、娘同然に想う二人の少女が歩む不遇の人生とその将来を案ずる気持ちだった。 <悪魔>と縁を結んでしまった少女と、その<悪魔>を憎む少女。いずれも闇に関わりを持ってしまった故に平穏な日々から抜け落ちてしまった。 若い彼女達には未来がある。 しかし、その輝かしい未来に、もはや既に黒い染みは付きつつあるのだ。 全てをリセットして普通の人生をやり直すなんてもう出来ない。今後の人生で引き摺っていかねばならない経験を、二人の少女はしてしまった。 それが痛ましくてならない。かつて、そんな人の未来を守る為に自分は戦っていたというのに―――。 「所詮、私は悪魔に魂を売った死人か」 無力な己を嘲りながらも、ゼストは祈らずにはいられなかった。 「……神よ。願わくば、地獄に落とすのは私だけにしてくれ」 全ての罰は魂を抜かれたこの身に。 彼女達にせめて未来を返してくれたのなら、この生ける屍は喜んで地獄に落ちよう。 彼女達の人生を狂わせた闇の住人達を共に引きずり込み、本来在るべき場所へ再び封じてやる。 戦士の悲壮な覚悟を嘲笑うように、視線の先にあるホテルからは黒煙が上がり始めていた。 地獄が始まる。 『お待たせいたしました。それでは、オークションを開催いたします』 開始を告げるアナウンスは予定していた時間通りに流れていた。 客席から起こる拍手の中、二階からホールを一望しているなのはとフェイトは思わず安堵のため息を吐き出す。 警備はオークションが終了するまで続くが、とりあえず事前に問題が起こることはなかったのだ。 警戒していた何らかの襲撃の可能性が一つ減ったことは彼女達の緊張の糸を一本解してくれた。 「とりあえず、出だしは順調だね」 「このまま、何事も無く終わればいいけど」 なのはの安堵にフェイトが水を差すように告げたが、その声に張り詰めたものはない。 元より確定した襲撃の可能性や、列車襲撃時のような現在進行形の緊迫感はない任務なのだ。 油断は無くとも、二人には余裕があった。 『―――ではここで、品物の鑑定と解説をしてくださる若き考古学者を紹介したいと思います』 なのはとフェイトが見守る中、会場に設けられたステージに一人の青年が登場する。 その青年の姿を見て、二人は思わず目を白黒させた。 『ミッドチルダ考古学士会の学士であり、かの無限書庫の司書長―――ユーノ=スクライア先生です!』 万雷の拍手を浴びてステージに現れたのは、二人にとって幼馴染であり親友でもある人物だった。 意外な場所での再会に、なのはもフェイトも言葉を失う。 停止した思考の代わりに感情がまず何よりも純粋な喜びを湧かせてくれた。 「ユーノ君……」 「なのは、この事聞いてた?」 「ううん、初めて知ったよ」 なのはの声には隠せない喜びと高揚がある。 お互い、昔のように簡単に会えるほど自分の立場は軽くはない。 結んだ絆は切れはしないが、それでも少しずつ距離は開いていくような気がして、そのことに諦めも感じ始めていた。 六課の発足で忙しくもなり、そんな寂しささえ忘れかけていた時に、このサプライズだ。 もちろん仕事のことは忘れない。でも仕事が終わったら? 別にちょっと話したり、食事の約束をつけるくらいはいいんじゃない? 珍しく興奮する親友を見て、フェイトは苦笑した。 「今日は久しぶりに四人で話せそうだね」 「うんっ。はやてちゃんも、早く戻ってくればいいのに」 「配置の指示、遅れてるのかな?」 ホールの外で、現場のシャマルやオペレーター達と情報を確認し合っているはずのはやてを思い出す。 出入り口を一瞥すれば、そこはまだ閉ざされたまま誰も訪れることはなかった。 そうしているうちに、ユーノらしい堅実で当たり障りのないスピーチは終わり、いよいよオークションが始まる。 『まずは出展ナンバー1とナンバー2の商品。かの有名なウロボロス社のアリウス氏から提供された由緒ある逸品です』 司会の言葉と共にステージの奥から防護ガラスのケースに納められた品物が運び込まれ、ホールに客のどよめきが低く流れた。 それは感嘆と―――畏怖によるものだった。 「なんだか……少し気味の悪い品だね」 「うん」 なのはの呟きは、客のほとんどが感じている感想の一部を端的に言い表していた。 ステージに運び込まれた品物は、いずれも歴史と風格を感じる、古い一本の剣と一体の人形だった。 絡み合う蛇の装飾が施された異常に長い剣も人を殺める武器としての不気味な迫力を放っていたが、何より人形の方が一際異様だった。 実際は木製のようだが、表面に滲んだ得体の知れない染みと着せられた血のように赤い衣服。そして虚ろな空洞を瞳にした顔が、無機物に生気を宿らせている。 ハンガーに固定されたその姿は、磔にされた罪人の遺体を連想させた。 薄ら寒い不安を感じさせる様は、確かに見る者によっては骨董品としての意趣を感じさせるかもしれない。 しかし、少なくともなのはとフェイトにとって、その人形は悪趣味を超えた怖気を感じるものだった。 『……これは、かなり見事な品物ですね。少なくとも、経過している年月はかなり古い物です』 ユーノもまたその違和感を感じたらしい。 しかしもちろん、アリウス本人が何処かにいるはずのこの場で下手な発言はせず、鑑定に集中している。 『こちらの剣は柄に銘が掘られています。名前は<マーシレス> 材質はほとんどが鉄のはずですが、不思議なことに刀身などに劣化が見られません。 しかし、魔力反応もほとんど無く、武器としては極めて原始的な―――』 ガシャン。唐突に、ユーノの言葉を遮る音が響いた。 その音の発生源を、誰もが正確に見つけることが出来た―――人形の入ったケースだ。 小狭いケースの中で、文字通り崩れ落ちるように人形がハンガーから外れ、関節を奇怪な方向へ曲げて蹲るように倒れていた。 「お、おい! 何してるんだ、早く元に戻せ!」 オークションの流れを寸断するに足る思わぬ失態に、ステージの脇に控えていた作業員は顔を青くして動き出した。 自分達にミスはない。しっかりと固定したはずだ。そんな不可解な思いを分かりやすく表情にしながら、数人が慌ててステージの中心へ駆け込んでくる。 誰もがユーノの解説に聞き入って視線を剣の方へ集中させていた為に、誰もが気づくことはなかった。 枯れ木のような見た目通りの軽い重量では決して起こり得ない、その人形がハンガーの固定から外れて倒れた原因に。 「痛っ」 フェイトの手に痛みが走る。一瞬だけ。右手に。 広げた手のひらに視線を落としたフェイトは目を見開いた。 古傷を覆い隠す白い手袋から、ゆっくりと広がるよう赤い染み。滲み出るそれが血ではなく、黒い闇のように錯覚する。 慣れ親しんだ痛みが、フェイトの脳裏に激しく警鐘をかき鳴らした。 これが意味するものは―――。 「……っ! 全員その人形から離れろォ!!」 全力で不吉を告げる勘のまま、フェイトが絶叫した。 惨劇の始まりを目にしたかのような切迫した叫びに、誰もが驚き、身を竦ませ、声の方向へ視線を走らせて―――皆が本来注意を向けるべき存在を理解していなかった。 《GYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA―――!!》 甲高い悲鳴が、その場にいる人間全ての鼓膜と精神を揺るがした。 それは確かに<悲鳴>に違いなかった。 生きた人間が上げるようなものではない。この世の生きる者全てを妬み、恨む、あるいは<悪霊>と呼べるような者達なら上げられるような呪われた叫びだった。 その声の発生源を囲ったガラスケースは激しく振動し、やがて耐え切れずに内部から破裂して無数の破片を客席にぶち撒ける。 客が降り注ぐガラス片に悲鳴を上げる中、自由になったソイツはゆっくりと起き上がった。 ―――糸の無い操り人形(マリオネット)が、見えない生命の糸に吊り上げられるように。 「こ、これは……?」 「ユーノ、ソレから離れてっ!!」 誰もが逃げることすら出来ずに硬直する中、全力で自身に働きかける危機回避本能に従って後退るユーノと、それ以上の意志の強さでフェイトが動いた。 二階の客席から一階まで飛び出し、持ち前の運動神経で無理なく着地を決めると、ステージに向かって一直線に駆けつける。 デバイスの補佐なくしては追随出来ない彼女の動きを、なのはは一瞬見送ることしか出来なかった。 ドレスの裾を振り乱すのも構わずフェイトは駆ける。 少なくとも人間以外の生命と意思が宿った人形は、自力ではない何者かに操られるような不自然な動きで歩みを開始した。 その不幸な行き先には、ユーノがいる。 フェイト以外の誰もが、ホラー映画の中の人物のように目の前で惨劇が起ころうとしながらも凍りついたように動けなかった。 画面越しの演出された恐怖とは違う現実の恐怖が、彼らの心を鷲掴んで動くことを許さないのだ。 「フェイトちゃん! ユーノ君ッ!!」 なのはには身を乗り出し、何かに祈ることしか出来なかった。 ユーノの眼前で人形は懐から錆びた短剣を取り出し、虚ろな殺意を持ってそれを振り上げた。 怨嗟の雄叫びも、狂気を含んだ哄笑も無く、ただ無機質に殺人が行われようとしている。 それを止められる者はいなかった。 ただ一人、フェイトを除いて。 「ユーノォ!」 美しいだけではない力を秘めた俊足で、フェイトはその致命的な瞬間に間に合った。 ステージに駆け上がり、短剣が振り下ろされる瞬間にユーノを押し倒すようにしてその場から離す。間一髪、その空間を錆びた刀身が空しく切り裂いた。 「フェイト!? どうしてここに……っ!」 「話は後! 奥に下がって、すぐに逃げて!!」 唐突な再会を驚く暇すら与えず、フェイトは立ち上がって再びこちらへ視線を向ける人形を睨み付けた。 先ほどと異なる点は、その人形がユーノではなくフェイトに狙いを変えたことだった。 「バルディッシュ、セット……ッ!?」 すぐさま戦闘体勢を整えようとデバイスに呼びかけるフェイトの声を、またもやあの呪われた声が遮った。 人間を模した人形の口が開き、その奥からおぞましい音が響き渡る。それは口というよりも蓋や扉が開くようなイメージを抱かせた。 耳を覆いたくなるような奇声がフェイトの鼓膜を震わせ、脳が揺れ、背筋に悪寒が走り抜けて気分が悪くなり―――そしてようやく気付いた。 「か、体が……動かないっ!?」 見えない糸のようなものが全身に絡みつき、体の自由を奪っているのが感じられた。 強張る筋肉とは裏腹に激しい脱力感が襲い、フェイトは空中へ吊り上げられる。 まるで自分が操り人形になってしまったかのように錯覚する。自分の意思では全く体が動かせない。 バインドとも違う未知の金縛りに陥ったフェイトは、短剣を振り上げる人形を睨みつけることしか出来なかった。 人形の顔の空洞に宿った、血のように赤い眼光を必死で睨み返す。 親友の危機に、ユーノが硬直した体の戒めを破壊して、なのはがデバイスを発動させながら飛び出す。 しかし、そのどれもが間に合わない。 無慈悲な刀身は振り下ろされ、白い肌が鮮血に染まる未来が確定しかかった時―――その男は間に合った。 「ィィイヤッッハァァァーーーッ!!」 景気付けるような雄叫びと共に人間ロケットが飛来した。 ユーノの防御魔法よりも、なのはの攻撃魔法よりも速く、彗星の如く飛び込んできた第三者の両脚がフェイトを襲う人形を吹き飛ばす。 硬いブーツの靴底を顔面に直撃させ、ステージの壁に激突した人形は、関節を滅茶苦茶な方向へ曲げて崩れ落ちた。 すぐ傍で呆然としていた司会者がようやく我に返り、奇声を上げて後退る。 誰もが息を呑んだ惨劇の中へ乱入した―――プロのリングでも通用するような華麗なドロップキックを決めた男は、その場の視線を全て受けながら立ち上がる。 「ア、アナタは……」 人形が倒れると同時に金縛りから解放されたフェイトは、酷く覚えのあるその長身を見上げた。 紫色のコートが翻る。 振り返った男の顔には、悪夢に迷い込んだのではなく自ら飛び込んでみせた自信と戦意が滾っていた。 男は笑った。初めてフェイトに会った時、彼女に見せたように。 「―――よお、ベイビー。また会ったな。これだけ短い時間で再会出来たんだ、こいつは運命だと思っても構わないだろ?」 冗談交じりにそう言って、ダンテは不敵に笑った。 「綺麗なだけじゃなくガッツもある。いいね、ますます好みだ」 「……っ! 逃げて!」 「そういう無粋な台詞は釣れないぜ」 再び緊迫感に満ちた視線を自分の背後に向けるフェイトを苦笑して、ダンテは振り返りもせず、背後に向けて魔力弾を撃ち放った。 コートの裏から滑るように抜き放たれたデバイスは、立ち上がろうとする人形の顔面を正確無比に捉えて、一撃で顔面を吹き飛ばす。 頭を失った人形は支えを失ったかのように文字通り崩れ落ちてバラバラになった。 「銃型の、デバイス……」 「怪我は無いみたいだな。そっちの先生も大丈夫かい?」 「え? ええ、大丈夫です」 余裕すら持って、呆気にとられるフェイトとユーノをダンテは気遣っていた。背後で消滅する人形の残骸になど目もくれない。 バリアジャケットを纏って援護しようとしたなのはも、ただ呆然としていた客も、誰もがこの突然現れた謎の男を見ることしか出来なかった。 奇妙な静寂に包まれるホールを、ダンテはステージから一通り見回す。 何かを探るようなその視線を訝しげに思いながら、フェイトは意を決して話しかけた。 「あの……」 「助けた礼なら後でいいぜ。半分は仕事で、半分は俺のポリシーさ」 女性には優しくな。 悪戯っぽくウィンクしてみせる仕草に性的な魅力を感じて、フェイトは思わず頬を赤らめた。感情とは関係ない、若い女ゆえの反応だ。 しかし、管理局員としてこの疑問を蔑ろにするわけにはいかない。 「アナタは、何者なんですか?」 「そう、いい男にはそういう質問をするのがいいぜ。だが、自己紹介は後回しだ」 ダンテは軽口を叩きながらも、もう片方の手で二挺目のデバイスを取り出した。 既に、その眼光は穏やかさを失い、鋭い戦士のそれへと変貌している。 その意味を理解したフェイトが、同じく警戒を露わにして周囲を睨み付けた。 いつの間にか再び感じる右手の痛み。 「―――来るぞ」 ダンテの呟きがまるで予言であったかのように、異変は起こった。 誰もが予兆を感じることが出来た。 全身に覚える未知の悪寒。人間の持つ本能的な恐怖は彼らに警告し、そしてそれが全くの無駄であるかのように退路は塞がれる。 ホールから外部に繋がる全ての扉を覆うように、真紅の結界が発生した。 表面に幾つもの苦悶の表情を浮かび上がらせたその壁は、呪いのように扉が開くことを封じる。 もはや誰一人としてこの場から逃げ出すことが出来ないという現実を人々が理解するのは少し後の話。 ダンテ以外の誰もが閉じ込められたことすら気付かない閉鎖空間の中で、次々と悪夢が具現化し始めた。 ホールの各所で悲鳴が上がる。 そこへ視線を走らせれば、見たことも無い魔方陣が発生し、それを<穴>として先ほどの操り人形と同種の存在が次々と現れ出始めていた。 「これは召喚!? それとも、違うの……!?」 未知の現象に戸惑うなのはは、それでも事態の把握だけは正確に行っていた。 あの人形は全てが間違いなく敵だ。 標的はユーノ? フェイト? それともこの場にいる人間全て? いずれにせよ最悪の事態が始まりつつあった。混乱し始める多くの客を一望し、それら全てを守りきることへの絶望感が湧き上がる。 やらなければ。だが、出来るのか―――? 「そこの勇ましいお嬢さんは、このホテルの護衛に来てるっていう時空管理局の人間か?」 戦う意思を固めたなのはを、この場では不釣合いなほど気安い声が呼んだ。 視線を走らせれば、既視感を感じさせる珍しい二挺拳銃のデバイスを持ったあの男が不敵な笑みを浮かべたまま悪夢の発現を見据えていた。 「そ、そうですけど」 「なら客の護衛を頼むぜ。避難誘導はやめとけ、あの人形どもを倒さない限り、もうここからは誰も出られない」 「アナタは一体……」 「質問には、このバカ騒ぎが終わったらプライベートなことも含めて答えてやるよ」 彼は昂然と<敵>を睨み付けた。 その両手が華麗な舞を見せ、二挺の銃が優雅に、優美に宙を踊り狂う。 悪魔が取り憑いたかのような人形の群れと人々の阿鼻叫喚。その狂ったステージで、彼のパフォーマンスは驚くほど冴え渡っていた。 なのはが、フェイトが、ユーノが―――その場で冷静な者全てが、場違いな光景に釘付けになった。 回転する銃身が上質なタップダンスのように彼の周囲を跳ね回る様。 なのはの脳裏に連想して浮かぶものがあった。 「……ティアナ?」 信じ難い呟きは誰にも聞こえず消えていく。 壮絶な銃の舞はクロスしたダンテの腕の中で終了した。 「子供の頃から古臭い人形劇ってのは嫌いでね。どうせ見るなら爽快なアクション映画だ。そうだろ?」 誰にとも無く軽口を叩くダンテの元へ、ステージの裏からも複数の人形がにじり寄って来た。 最初の人形と同じように、搬入されたコンテナの中に居たモノが自ら動き出したのだ。 なのは達が四方八方に警戒を走らせる中、悪夢の出現は止まり、悲鳴を上げる人々を囲い込むように悪夢の出演者が入場を終える。 地獄の舞台は整った。 その中心に立つ男が告げる。 「さあ、始めるとしようぜ」 「……アナタは、魔法が使えるんですね?」 その男の正体を後回しにして、今はこの事態を共に切り抜ける為に戦いの意思を確認するフェイトへ、ダンテは鼻で笑って見せる。 「―――魔法だって? ハッハァ、銃(こいつ)を喰らいな!!」 周囲の<悪魔>どもに向けて、ダンテはいつものように銃をぶっ放した。 to be continued…> <ダンテの悪魔解説コーナー> マリオネット(DMC1に登場) 綺麗な人形に悪霊が宿って動き出したなんて話は良くあるよな? 殺人鬼の魂が宿った人形のホラー映画まであるくらいだ、人の形をした物に何かの自我が乗り移るという概念は珍しくはない。 だからこそ、人は分かりやすく恐怖する。そんな負の感情を利用しようと人形を媒介にして現れたのがこの悪魔だ。 悪魔狩人としちゃ、相手にする弾丸も勿体無い雑魚中の雑魚だ。誰もが考えるからこそありふれた悪魔だと言える。 その名のとおり外部からの力で操る仕組みのせいか、人形自体の耐久力も媒介になった物そのままだ。ちょいと手荒に扱えばすぐにぶっ壊れちまう。 ただし、その非力を補う為か短剣や銃まで使って戦い方を工夫する賢い奴も中にはいやがる。ありふれているからこそ、時代に合わせる柔軟性もあるってワケか。 そして、中でも<ブラッディマリー>と呼ばれる、自分の服を襲った人間の血で染めた赤い人形は曲者だ。 黒魔術などでも用いられる通り、血液ってのは魔力や呪いを秘めている。 その忌まわしい力が、人形に宿った悪魔まで強化しちまうんだ。人間の負の部分を力にする悪魔ってのは、やはり胸糞の悪い存在だぜ。 殺された人間も、勝手に乗っ取られた人形も、これじゃあ浮かばれない。 徹底的に破壊してこの世から消滅させてやるのが、そいつらにくれてやれる手向けって奴だろう。 [[前へ なのはStylish11話]] [[目次へ 魔法少女リリカルなのはStylish氏]] [[次へ なのはStylish13話]]
https://w.atwiki.jp/onlinehero/pages/74.html
トップページ データベース 地域/地図 フォーラム サイトについて コスチューム 冠・兜(コスチューム)は、男共通アイテムと女共通アイテムの2種類があります。 入手方法の「ミ」はミント購入、「ガ」は英雄ガチャ、「イ」はイベント、「合」は合成、 「本」はファンブック、「終」は販売終了を表します。表示が薄くなっているところは各当しない部門です。 「ステ」は装着に必要なステータス(力、敏捷、知力)を表します。 特殊防御の「毒」は毒防御、「麻」は麻痺防御を表します。 「:SET」はセット効果タイプを表します。 「!」は時間制アイテムと装着の制限時間を表します。 「s」は秒、「m」は分、「h」は時間を表します。 「Lv」は装着に必要な内功を表します。 絢爛 壮麗 東方 東明 金連 羅漢 紅武 四天 兜・冠 鎧 靴 面 名前 重さ Lv 入手方法 男物 女物 体力 気力 体・気力回復速度 →売っている店 →モンスター 特殊 ■冠/兜(コスチューム)■ 豚珍冠(刀剣) 重さ Lv ミ|ガ|イ|合|本 体力 気力 体・気力回復速度 →売っている店 →合成材料 -- 豚珍冠(槍棒) 重さ Lv ミ|ガ|イ|合|本 体力 気力 体・気力回復速度 →売っている店 →合成材料 -- 兜・冠 鎧 靴 面 絢爛 壮麗 東方 東明 金連 羅漢 紅武 四天 ▲戻る
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/310.html
ここ、とある世界のイタリアと言う国・・・ 僕、クロノ・ハラオウンはこの地に立っていた、勿論、旅行やバカンス・・・と言う意味合いもあるが仕事も兼ねてだ。 まあ、少々長めの休暇なので、じっくり腰をすえて仕事もしろという裏の意味はちょっと気が重い。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「艦長、お呼びですか」 アースラの艦橋に呼ばれた僕に 「クロノ、手短に言うわ、仕事を含めてバカンスに行く気は無いかしら?」 母さ・・・リンディ提督は有無を言わさず予定を告げた。 「・・・自分にも執務官の業務があるのですが・・・」 「それを含めて、よ、取りあえずこれを見て、エイミィお願い」 「はいはい・・・これ・・・だっけか?」 コンソール上に複数の風景や街並み、文化レベルや政治形態のデータがまとめて表示される。以前見たなのはの世界と似たような世界であったが・・・犯罪計数や治安を含めて、多少粗野な印象を受けた。 「これは?」 「管理外世界、その中でもかなり奇妙・・・というか文化レベルのおかげで介入が非常に難しい世界よ」 「汚職政治がまかり通ってる所為で管理局も全然手をつけられないし、魔法なんかぶっ放せばさらに大騒ぎ・・・それをネタにゆすり、たかり、etcetc・・・」 エイミィがやれやれと言った感じで首を竦める、確かに好き好んで臭いものに手をつけるのは酔狂か物好き位だろうか。 「この世界は放置しても構わない・・・と思っていたんだけど・・・これね・・・」 画面上に一組の弓と矢が表示される。かなり特異な形状でただの狩猟道具では無い様だ・・・加えて我々が目をつける物体と言えば・・・ 「ロストロギア・・・ですか・・・」 「ええ、詳しい効果や能力は不明だけど・・・これに関わった人間が奇妙な行動を取ったり、謎の死を遂げたりしているわ・・・その中でもこの例・・・」 画面に奇天烈な髪形をした学生制服の男と、スーツを着た男が向き合っている。写真は少々画質が荒いがかなり緊迫した状況なのが見て取れる。 「エイミィ、これに魔力スキャンをかけてくれる?」 「了解、ペコポコペンと・・・」 「・・・これは!?」 魔力スキャンをかけると、男達の魔力反応・・・に加えてその身体の傍にもう一つ人型の強力な魔力反応が見えた。 「これは魔法をこの世界の体系で使用した例のようね、関係者は『スタンド』と呼んでいるわ・・・動画を」 魔力スキャンのまま男達が動く、いくつかの動画が撮影されていた様で、スーツの男はいくつかの魔力弾を飛ばし、学生服の男は仲間の傷を治している・・・更にはもう一人の男はいきなり信じられない速度にまで加速したり、移動したりしている。 「馬鹿な・・・魔力操作、治癒魔法・・・?に・・・転移、じゃない、時間操作!?」 「そう、こんな高レベルの様々な魔法が何の法整備も無く使用されている・・・これはかなり危険だわ」 「原因は・・・ロストロギアですか」 「全部ではないわ、でも何らかの組織が意図的に魔術士を量産した、と言うのが私達の推測」 成程、と言う事はある程度そのロストロギアは管理、運用されていると言う事になる、しかしそこが良心のある組織と… 「そしてこの影響が顕著なのがこの世界のマフィア、ギャングの溢れる地域、イタリアと呼ばれているわ」 …良心とは程遠い単語がいくつか飛び出した・・・少々落胆しつつ話を続ける。 「ロストロギアなら多少文化レベルの低さに目を瞑っても介入する必要がある・・・ですか」 「かしらね・・・それともう一つ、ここ最近起こっている魔術士襲撃事件・・・あちこちの世界に被害が散らばっていて加害者の居場所すら発見できなかったんだけど・・・」 「この世界に介入した魔術士数名と魔力を持つ一般人が被害を受けてさ、その事件発生までの速度から犯人はこの世界に潜伏していると断定されたよ」 ここらへんで話が読めた・・・つまりは・・・だ。 「僕にこの世界への潜入捜査をしろと・・・内容はロストロギアの監視、連続魔術士襲撃事件の解明及び逮捕・・・そんな所ですね?」 二人は軽く微笑 「かなり危険な任務となるわ、場合によってはアースラも外部待機として同世界に乗員が支部を構える用意も出来てる・・・それと現地のとある組織と交換条件でね・・・これを」 一枚の写真、それには黒髪の少年が写っている。 「汐華初流乃、その人物の皮膚、血液なんでもいいから体組織を持ってきて欲しいそうよ・・・その代わり、現地の拠点を用意してくれるらしいわ」 「体組織・・・?何者なんですか?この少年は・・・」 「『それを調べている・・・危険な人物ではない、だがなるべく接触を避けて欲しい』・・・だそうよ・・・」 「先ほど話した・・・『財団』・・・と言う組織の人員ですか?」 「うん、通話だけのやり取りだったんだけどね、ついでにグレアム提督が上層部に掛け合ってくれて、この件に関わる人員にはあらゆる権限を約束する・・・つまり、有事の際には本気モードでいいって事だよ、クロノ執務官?」 「茶化さないでくれ・・・捜査は単独でしょうか?」 「人員補充は随時可能、条件は『君の信頼できる人材』だそうよ?」 信頼できる・・・僕は武装局員や一般局員を信頼していない訳ではない・・・が、戦力的な信頼と言う点で自分と同等もしくは自分以上の戦力なら、数は非常に限られる。 それに、個人的な付き合いは自慢じゃないがあまり無い。やはり、思い浮かぶのは彼女・・・それと周りの人間・・・今は義理の妹。 「ロストロギアの捜査はともかく、襲撃事件の犯人と交戦の可能性を考えると・・・戦力は高い方がいい、協力者を呼んでいただけますか?」 「妹さんと、彼女だね?」 僕は無言で頷いた。 「高町なのはと使い魔・・・じゃなかったユーノ・スクライアに交信を頼む」 場所は変わって クロノの向かう筈の世界のとあるマンション、障害者が多く住むイタリアではまだ珍しいバリアフリーのマンションの一室 「到着~八神特急終点です~」 「ちょっと遅延やったけどな、ありがとシャマル」 「お帰りなさいませ主、帰りが遅いので心配いたしました」 「お帰りはやて!」 車椅子に乗った少女にそれを押す女性、駆け寄ってくる赤髪の少女と大型の喋る犬 八神はやてとその家族は財政支援を受けつつ慎ましく暮らしていた。 「シグナムは・・・今日は遅いんか?」 その場に居ないもう一人の家族を案ずるはやて。 「ん~、なんか散歩、周囲の警戒も兼ねてるんだって」 「あまり此処は治安が良いとは言えませんからね・・・マンションは個別に鍵掛けてるから大丈夫ですけど」 「そか・・・でも気つけてほしいな・・・心配や」 「だいじょーぶだよ、シグナム怒るとおっかねぇしさ」 「うん・・・ん?・・・あ、留守電か?」 メッセージが三件入っている、一つ目は通院している医師の物で、既に聞いたものだったが・・・ 『あ・・・その、ドッピオです・・・昼頃その・・・あ、いや、ちょうど留守の時みたいだったんで・・・夜頃お伺いしても、良いでしょうか?・・・お電話待ってます』 「ドッピオさんですね、まめに気遣ってくれてありがたいです」 「そやな~おっちょこちょいだけどいい人や」 「あ・・・やべ」 「どしたん?ヴィータ」 二件目のメッセージ 『えと、あ・・・ドッピオです・・・ヴィータちゃんに聞いたら六時頃みんな帰ってくるのでその時に・・・と言うので・・・ちょっと遅いですが、七時ごろお伺いにさせてもらいます・・・』 現在時刻、六時四十五分 「あかんー!ザフィーラ、ヴィータ部屋片付けてー!シャマルは料理手伝ってぇな!!」 「ヴィータちゃん!どうして勝手に呼んじゃうのー!」 「だってさー!遅れるなんて思わなかったから」 一瞬にして騒然となる八神家にシグナムが帰ってきた。 「主、遅れて申し訳ありません・・・外でドッピオ殿が時間を潰していた様なので家に来ていただきましたが・・・」 全員が凍りついた。 海鳴市、高町家なのは自室にて 「と言う事だけど・・・どうする?」 フェレット姿から、人間の姿に一時的に戻り、ユーノ・スクライアが携帯からの魔道文書に目を通しつつ、なのはに聞く。 「危険なんだよね・・・時間がかかるかもしれないなら、学校もお休みだし・・・お父さんやお母さんにも心配かけちゃう・・・」 「フェイトは嘱託魔導師試験をクリアしたらしいから・・・もしかしたら会えるかも」 「そうだね・・・会いたい・・・」 胸元のデバイスを握りこみ、腰掛けていたベッドから立ち上がる。 「うん!行くよ!レイジングハートも・・・頼りにすると思うけど・・・」 『No problem』 「わかった、後日リンディさんが理由付けにこっちに来るって・・・しばらくの滞在だからそれなりの理由が必要だしね」 決定の是非は問わなかった、が、ユーノ・スクライアにはなのはが何かに引かれているようだと言う事をなんとなく感じていた。 そう、スタンド使い(魔法少女)はッ!魔法少女(スタンド使い)に惹かれ合う!! 魔法少女リリカルなのはGE(黄金体験!) 始まります 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1738.html
「全員揃ったわね」 訓練用のトレーニングウェアに着替えたティアナは、他のメンバーと合流し、その顔を一様に見渡した。 ティアナと組んで前衛を続けてきたスバルは言うまでもなく、まだ経験の浅い子供であるエリオとキャロの統率力も低い。 必然的にティアナが四人を纏めるリーダーシップを発揮する形になっていた。 「お互いの能力や性格、癖―――連携に影響する重要な要素だけど、まだ私達はそれを十分に理解し合ってない。 噛み合わないのは当然だと思うわ。最初の共同訓練なんだから、尚更ね。そして、その為の訓練だと思う。 一応私が全体の指示を引き受けるけど、自己判断に任せる場面も多くなるから、基本的に自分の思うようにやってみて。失敗はチームで補うわ」 簡潔に方針を話し、ティアナはこれから長い付き合いとなる仲間の顔を一人一人見据えた。 慣れ親しんだスバルの信頼の視線を受け、緊張の抜けないエリオとキャロに目上ではなく同じ目線で向かい合う。 『仲間と平等に接する』という意図せぬリーダーとしての気概の発揮に、その場の全員が彼女の指揮に無意識の信頼を寄せていた。 「りょーかいっ!」 「はい! 分かりました!」 「よ、よろしくお願いします!」 快活なスバルとエリオの返事を聞き、若干震えの見えるキャロにティアナは注目した。 この中でも最も小柄なキャロは、その緊張に強張った表情も相まって酷く頼りなさげに見える。 何より、<竜召喚師>という希少な能力者はそれゆえに戦術のセオリーに当てはめにくい。経験の浅い新人チームにあって、持て余す存在だった。 そんな内心の分析を表に出さず、ティアナは視線を向けられて不安げなキャロに近づいた。 「緊張してるみたいね」 「す、すみません……」 『キュル~』 ますます恐縮するキャロを案じるように、傍らの幼竜が鳴く。 「謝ることなんてないわ。初の訓練で気の抜けた顔してる奴より全然マシ」 「それってわたしのこと?」 抗議するスバルを軽く無視し、ティアナは優しくキャロに笑いかけた。彼女には珍しい表情だ。 その小さな両手を自分の手でそっと包み込む。 装着されたグローブ型デバイス越しに体温が伝わり合った。 「あ……っ」 キャロが驚きに一瞬震え、思わず手を引きそうになった。それを握って押し留める。 少女の瞳に浮かんだ何かに怯える色と、小さく震え始めた手を見て取り、ティアナはキャロの顔を覗きこんだ。 「知らない人に手を握られるのは怖い?」 「いえ……そのっ」 「緊張した時は手を温めてもらうと落ち着く、って何かの本で書いてあったんだけどね。ま、赤の他人がやっても意味ないか」 「すみません……」 「いいのよ。馴れ合いはあたしも苦手だわ」 そう苦笑して、ティアナは手を離す。 一瞬だけキャロが名残惜しそうな顔をしたのは、都合のいい錯覚だと思うことにした。 「お互いにいろいろ理由があって、ここにいる。それぞれの事情を、これから先打ち明けることがあるかもしれないし、ないかもしれない―――」 離した手を、代わりに小さな肩へ置き、真剣な表情で顔を付き合わせる。 自分を子供だと侮らない真摯な視線を受け、いつの間にかキャロは震えも忘れてティアナの眼を見入っていた。 「でも一つ、確かな事がある。 アナタはここに理由を持って、自分の意思で立っている。ここから伸びているのは進む道だけ、退く道はないわ」 だから、進むだけだ―――ティアナは言葉に出さずに、そう眼で語った。 各々が違う理由、事情で、しかしただ一つ『進む為』に此処に集っているのだと。 ティアナがスバルとエリオに視線を移すのに倣って、キャロも二人を見た。 これから苦楽を共にする仲間達。二つの視線が自分を見つめ、そして力強く微笑むのを感じる。 それが、キャロの孤独な心に不思議な安心感を与えた。初めて感じると言っても過言ではない、全く未知の誰かと共有するような感情だった。 彼女は、まだその感情の名前を知らない。 「月並みな言葉だけどね……一人で進む道じゃない。仲間がいる、それを忘れないで」 その言葉は、ティアナ自身が得た一つの確信だった。 目の前の少女と同じくらいの歳で、孤独に打ち立てた誓いを聞いてくれたダンテ―――。 その誓いを一人で頑なに見上げていた時に出会い、今も尚支えてくれる相棒のスバル―――。 本人達の前で決して言葉になどしないが、今の自分になれたのは一人の力だけじゃないと思っている。 「……はい!」 キャロの二度目の返答は、今度こそ迷いの無い力強さを感じるものだった。 二人の様子を見守っていたスバルとエリオの間にも笑顔が広がる。 訓練前だが、この瞬間初めて仲間意識というものが芽生えた気がした。 「すごいですね、ランスターさん……」 「当然だよ、なんてったってわたしの相棒だし!」 ティアナを見る眼に尊敬の色まで混じりだしたエリオに、スバルは『相棒』の部分を強調して答えた。 何故か胸を張るスバルの頭をティアナが照れ隠しに小突く。 「あたしのことは<ティアナ>でいいわよ。エリオ、キャロも」 「わかりました!」 「ありがとうございます、ティアナさん」 ティアナは二人の返答に満足げに頷き―――そして、傍らで一変して不満そうに頬を膨らませる相棒を見てため息を吐いた。 「……何? 言いたいことあるなら言いなさいよ」 ハムスターになったスバルを呆れたように眺め、仕方なしに尋ねる。 どうせくだらないことだろうと思いながら。 「ズルイ……ティアに一言物もぉーす!」 「は?」 「わたしはティアの名前を呼ぶ許可もらうまで三ヶ月かかったんだよ? なんでそんなにあっさり! それに、初対面のキャロになんか甘くない? わたしの時はもっとツンツンしてたのにさっ! いきなりデレですか!?」 「何、その怒り方? あの時とは状況が違うでしょ。これから一緒に死線を潜る仲間になるんだし……」 「ずーるーい! ティア、二人だけ絶対ヒイキしてるっ! わたしにも、もっと暖かい扱いをよーきゅーする!」 「私は誰に対しても平等だっつーの」 どうでもよさげに答えて、ティアナは迫ってきたスバルの顔面をチョップで迎撃した。 顔を抑えてのた打ち回りながら「これも愛!?」とワケの分からないことを叫ぶスバルと、過激なやりとりに冷や汗を流すキャロとエリオも無視して時刻を確認する。 「そろそろ集合時間よ。初の訓練で遅刻なんて論外。無駄口はここまでよ」 真剣なティアナの言葉に、それまで和やかだった三人の表情が引き締まった。 心地良い馴れ合いの時間は終わったのだ。 ここからは、戦闘の時間だ。 「何もかも初めて尽くしの訓練……。遠慮なんて必要ないわ、緊張しようが気負ってようが構わない。 スバル、あんたの大好きな<全力全開>よ。教導官にも仲間にも、自分の力を周りに見せ付けてやるくらいのつもりでやりなさい!」 その場にいる仲間達と、そして自分自身にも言い聞かせるようなティアナの言葉に三人は頷いた。 スバルが拳と手のひらを打ち合わせて気合いを入れ、エリオも小さな拳を握り締める。キャロが傍らの小さな友と頷き合った。 「行くわよ」 緊張と不安と、それ以上の強い気概を心に同居させ、高ぶる四人のルーキーは走り出す。 それぞれの決意と共に、初めての訓練が待ち受ける先へ。 「―――Let s Rock!」 魔法少女リリカルなのはStylish 第七話『Destination』 「―――ヴィータ、ここにいたか」 海上に設けられた人工の平地に、空間シミュミレーターによって市街戦のステージが投影されていた。 これから始まる訓練の光景を眺めていたヴィータに見知った顔が歩み寄る。 「シグナム」 「新人達は早速始めているようだな」 「ああ……」 妙に気の抜けた返事に、シグナムは僅かに眉を潜ませながら眼下の沿岸で渡されたデバイスのチェックをする新人達を見つめた。 「お前は参加しないのか?」 「たるい」 歯に衣着せぬ端的な返答を聞いて、シグナムは思わずコケそうになった。 「……お前な、もうちょっと考えて話せ」 「初日の訓練で隊長クラスが相手する意味なんてねえって分かってんだろ? あたしの教導はもうちょっと先だ。……それに、なんかやる気起きねー」 「昨夜任務があったからといって、少々気を抜きすぎだぞ」 ともすれば欠伸までかましそうな腑抜け具合のヴィータをシグナムが諌める。 昨夜の出撃で、ヴィータ達がガジェットの他に管理局で噂になっている謎の襲撃事件に遭遇したことは聞いていたが、無傷の三人を見るとそれほどの消耗は感じられなかった。 事実、ヴィータの疲労の原因は外傷などではなかった。 ただ精神的なもの。あの夜対峙した異形の存在と異界のように錯覚した空気の中で戦い続けた緊張が、知らず神経を張り詰めさせていたのだ。 <悪魔>は闇の具現。人を恐怖させる存在―――それに抗うことは並ならぬ心の力を必要とする。 それに加えて。 「予想外の乱入もあったしな」 「保護した民間の子供か? 居住権のない遊民とはいえ、考慮しなかった陸戦部隊の不手際だ。人道的ではないしな」 「……まーな」 曖昧な返事を返しながら、もちろんヴィータの脳裏に浮かんだのは赤い人影だった。 約束通り、ダンテの事は報告していない。 上司や仲間に黙っている後ろめたさは残るが、ヘタに話しても混乱するだけだろうと思った。こちらも半端な情報しか持ってないのだ。 謎の襲撃者を<悪魔>と呼び、そいつらを狩る者と称した男―――。 個人的に、その強さよりも人柄に興味を持った。生真面目な男の多い管理局内において会ったことのないタイプだ。 小気味のよいテンポで進める会話。妙に心地良い騒がしさを持っている。朝から気が抜けるのも、案外あの喧騒の後だからかもしれない。 そこまで考えてヴィータは我に返り、そしてシグナムに気付かれないよう苦笑した。 管理局の魔導師として義務感のようなものを抱くくらい勤めてきたつもりだが、随分と私情が混ざってるな、と自分を可笑しく思う。 だが、勝手気ままは自分らしい。やはりスーツ姿はあたしには似合わない。 「……ところでシグナム、訓練の様子ってここで見れんのか?」 そこまで考えて、ヴィータは眺めていた眼下の様子で気になるものを見つけた。 「シャーリーに頼めばモニターを回してくれると思うが……。どうした、気になる新人でもいたか?」 「んー、まあな」 視線を一人の少女に向けたまま、曖昧に呟く。 ダンテと共に戦ったのは昨夜の事だ。あの鮮烈なイメージが薄れるような時間ではない。 だからか。思い描いていたあの男の鮮明な姿と、視線の先でデバイスをチェックする新人の姿が重なって見えた。 「彼女は、確か<ティアナ=ランスター>だったか」 ヴィータの視線を辿ったシグナムが呟いた。 ティアナの持つデバイスは珍しい銃型。それも両手持ちの二挺銃(トゥーハンド)―――あの男と同じだ。 「ティアナ、か……」 二人の人間を繋ぐには、ささやかすぎる共通点だとは思う。 しかし、ヴィータは自分でも気付かずに彼女と彼女の持つデバイスに意識を集中させていた。 そして訓練が始まる。 『よし、と。皆聞こえる?』 「「はい!」」 訓練用ステージに入った四人が、別の場所で様子を見ている教導官の声に答えた。 周囲は老朽化した建物に囲まれているが、当然のように人気はない。 『じゃあ、早速ターゲットを出していこうか。まずは軽く8体から―――』 なのはが指示を出すと同時に、ティアナ達四人の眼前に言葉どおり八つの魔方陣が出現した。 『わたし達の仕事は、捜索指定ロストロギアの保守管理』 実戦を想定した訓練ゆえに、その魔方陣が意味するものは転送魔法の発動。 <敵>が出現する前兆だ。 『その目的の為に、わたし達が戦うことになる相手が―――コレ』 魔方陣から浮き出るように、ティアナ達の目の前にターゲットが全容を現した。 四肢を持たず、カプセルのような形状をした非人間型の機体。滑らかな装甲の中心にはセンサーだけが眼のように輝いている。 『自立行動型の魔導機械。これは、近づくと攻撃してくるタイプね。攻撃は結構鋭いよ』 シャリオが補足を加える。 管理局では、もはやポピュラーな敵となりつつあるそれは<ガジェットドローン>と呼ばれていた。 ルーキーの訓練相手としては無難なものだろう。だが、もちろんティアナ達にとっては初見の相手。強敵だった。 『では、第一回模擬戦訓練。 ミッション目的―――逃走するターゲット8体の破壊、または捕獲。十五分以内!』 『それでは』 『ミッション、スタート!』 合図が下され、それと同時に浮遊しているだけだったガジェットが唐突に動き出した。一斉にその場から散開する。 訓練開始だ。 「スバル、あんたが一番足が速い。このまま追跡して。まずは単純に追い込む作戦でいく。 エリオ、あんたはスバルが追い込む先に先回りして挟み討つ。深く考えなくていい、あいつらがこちらの考えを読むほど複雑な機械なら追って作戦を修正するわ」 ガジェットが行動を開始すると同時に、ティアナの頭脳もまた高速で動き始める。 あっという間に見えなくなるガジェットの群れを闇雲に追うような真似をせず、落ち着き払った態度でスバル達に次々と指示を飛ばした。 「キャロは私に付いて、援護しやすい場所を確保。以後、あたしからの指示は念話で行うわ。行動開始!」 「「了解!」」 そして、全員が戸惑うことなく返答を返した。 一方、同じ訓練用スペースの離れた場所で状況を見守るなのはとシャリオ。 「……いいね、初めてにしては行動開始が早いし、戸惑いもない」 ガジェットの逃走から一拍置いて動き出した新人達の行動を見ながら、なのはがとりあえず満足げな笑みを浮かべた。 現場では、冷静に物事を処理する事が必要になる。 慌てて追うような真似をしていたら、それこそ減点だった。 「指示を出しているのは、ティアナ=ランスターのようですね」 「一番落ち着いてる娘だね。何か場数を踏んでるのかも……さて」 モニターには、逃走する8体のうち2体のガジェットに、今スバルが追いつこうとしていた。 「どう捌く?」 追撃するスバルの目の前で、敵は二手に別れていた。それぞれ4体ずつに分散して逃走を続ける。 その内の片方にスバルは狙いを定めた。もう一方はエリオが先回りして待ち伏せている予定だ。 リボルバーシュートの射程に捉え、スバルは攻撃を開始した。 しかし―――。 「何これ、動き速っ!?」 「駄目だ! フワフワと避けられて、当たらない……!」 一撃の威力を高めて放ったスバルと手数を重視したエリオ、いずれの種類の攻撃もあっさりと回避された。 技量がガジェットの回避性能に及ばなかった、というのが単純な結論だ。 建物の屋上から様子を伺っていたティアナは冷静にそう判断した。 『前衛二人、少し分散しすぎよ。フォローできる範囲を確認して』 『あ、はいっ!』 『ゴメン!』 念話を通した静かな叱責に、二人の慌てた返事が返ってくる。 しかし、概ねティアナの思考のうちで事態は動いていた。 眼下の道を再び合流した8体のガジェットが飛んでいく。 撃ち下ろしの絶好のポジションだった。 「キャロ、威力強化をお願い」 「は、はい!」 「落ち着いて。半分くらいはアレの防御性能を確認するのが目的だから、撃破しようなんて気負わなくていい」 「分かりました……っ」 キャロの緊張を緩和しながら、ティアナは両手のアンカーガンに魔力を集中していく。 「ケリュケイオン!」 《Boost Up.Barret Power》 グローブ型デバイスが増幅魔法を発動し、ティアナの射撃魔法を強化した。 アンカーガンの銃身に込めた高密度の魔力が膨れ上がるのを感覚で感じ取り、それをティアナは狙い定めた照準の先へと解き放つ。 「Fire!」 普段より数倍は増した魔力の炸裂音が本物の銃声のように響き渡り、二挺のデバイスがオレンジ色の弾丸を吐き出した。 8体の標的にそれぞれ二発ずつ、狙い違わず魔力弾が全弾命中する。 誘導性は付加していない。スバルとエリオが攻撃に失敗した回避性能を考えれば、驚異的な補足率と弾速だ。 しかし、それすらも撃破には至らなかった。 全てのガジェットが例外なく、飛来した魔力弾を寸前で対消滅させる。 「魔力が消された!?」 その光景を見ていたスバルが驚愕の声を上げる。 一方、狙撃したティアナ本人は平静を保ったまま、予感していた結果を受け入れていた。 「バリア……いや」 「フィールド系ですね。周囲の魔力結合を分解しているみたいです」 傍らから聞こえた言葉に、ティアナは意外そうな表情を向け、そしてすぐに満足そうに笑った。 「よく見てるじゃない」 「え……っ? あ、いや、恐縮です……」 我に返り、顔を赤くして俯くキャロの肩に手を置く。訓練中に見せられる精一杯の愛想だった。 ティアナとキャロの分析を補足するように、なのはの説明が流れる。 攻撃魔法を無効化するAMF(アンチ・マギリンク・フィールド) ガジェットが標準装備する機能であり、魔導師にとって最も厄介なシステムだ。 突撃したスバルが範囲を広げたAMFにウィングロードを解除され、ビルに激突する光景を眺めながら、ティアナは内心舌打ちした。 射撃魔法のみで、物理攻撃方法を持たない自分は接近するだけで不利になる。 なるほど、確かに厄介な相手だ。 ―――だが、それだけだ。 厄介な代物ではあるが、それは『破壊するのに少々工夫が要る』程度のものでしかない。アレはただの的だ。それは脅威ですら在り得ない。 本当に恐ろしい<敵>とは『倒すか、倒されるか』 自分の身を天秤にかけて戦う相手のことだ。 そして、ティアナはそれを既に経験していた。 「……キャロ、何か意見はある?」 「え、わたしですか!?」 唐突に話を振られ、それまでティアナの背後に付き従うだけだったキャロは驚きに体を震わせた。 すぐさま弱気の虫が湧いて来る。 しかし、力なく首を振ろうとした仕草は、ティアナの自分を見据える真っ直ぐな視線の前に消えて失せた。 「…………試してみたいことが、幾つかあります!」 「あたしもある。決まりね」 スバルとエリオに念話を送り、二人は移動を開始した。 「……シャーリー、ガジェットの映像拡大してみて」 「え、はい」 それまで黙ってモニターを眺めていたなのはの指示に、シャリオは戸惑いながらも従った。 8体のガジェットを映すモニターが映像を拡大する。 「……ああっ!」 「うん、驚いたね。届いてるよ、攻撃」 なのはの言葉通り、これまで直撃を受けていないはずのガジェットのうち数体の装甲には、ほんの僅かだがヘコみが出来ていた。 飛行ミスでどこかにぶつけたような傷ではない。原因は一つしかなかった。 「やるね、ティアナ」 「増幅されてたとはいえ、通常の射撃魔法でAMFを抜くなんて……」 「自然体でこれだけの魔力の集束率、なかなか出来ることじゃないよ。報告通り、あの娘は射撃魔法だけならAランクはいくね」 自分の中の評価を修正しながら、なのはは自然と笑みを浮かべていた。久しく感じなかった興奮を伴って。 AMFを越えたとはいえ、増幅魔法との併用でこの程度の結果だ。戦況を動かせるような要素ではない。 ならば、彼女はどうするか? 「ティアナの中でも修正は終わったみたいだよ。そろそろ動く―――さて?」 スバルとエリオが待ち構える地点へ、ガジェットが気付かずに接近する。 逃走が基本の行動パターンとなっているガジェットの進路を、高所で観測するティアナの報告と合わせて予測するのは難しいものではなかった。 ガジェットの進む先。道路を横断するように伸びるビルの渡り通路の上に、エリオは待機している。 『AMFが無効化できるのは魔法効果だけよ。<発生した効果>までは無効化できない。分かるわね?』 「はい!」 事前にティアナから与えられた情報から、エリオは取るべき方法を察していた。 ガジェットが通路の真下を通過する直前まで気配を殺し、タイミングを計って行動を開始する。 「いくよ、ストラーダ! カートリッジ、ロード!!」 《Speerschneiden》 スピーアシュナイデン。高威力の直接斬撃が足元の通路を一瞬で幾つにも切り崩した。 崩落する通路の石片がガジェットの群れに降り注ぐ。 大味の攻撃ではあったが、その重量と落下範囲の広さによって、二体のガジェットが瓦礫に押し潰されて圧壊した。 立ち上る粉塵の中から飛び出す二体のガジェット。それを今度はスバルが捉える。 「潰れてろぉーっ!!」 飛行する一体のガジェットに飛び掛り、魔力を込めたリボルバーナックルを叩き込んだ。 しかし、当然のように皮一枚でAMFがそれを阻む。 魔力とフィールドが衝突する反動により、空中で不安定なスバルは弾き飛ばされた。 「……っ、やっぱ魔力が消されちゃうと、イマイチ威力が出ない!」 『フィールド系は攻撃を遮断するタイプの防御じゃないわ。威力が持続すれば突破できる。足場を確保して、負荷を与え続けて!』 再びティアナの的確な指示が飛ぶ。 それを受けたスバルはエリオと同じように返事を返そうとして、思い留まった。 「ゴメン、ティア! もうちょっと分かりやすく言って!」 バカだった。 ティアナはその場で脱力しそうになるのを踏ん張った。 『……とっ捕まえてぶん殴れ!』 「さすがティア! わっかりやすい!」 『後ろから来てるわよ、このアホの子!』 「ア、アホの子じゃないよぉ~!」 気の抜けるようなやりとりを交わしながらも、スバルは背後に回り込んだガジェットに一瞬で対応した。 涙目の台詞とは裏腹の俊敏な動きで逆にガジェットのセンサーの死角へ回り込み、両足で機体を挟み込んで馬乗りになる。 「うりゃああああっ!!」 地面に固定される形になった標的に、渾身の力を込めた一撃を打ち下ろした。 再び阻まれる拳。しかし今度は逃げ場などない。地面とリボルバーナックルに挟まれたガジェットは徐々にAMFを侵食され、ついには突破される。 歯車状のナックルスピナーが回転の唸り声を上げ、銃弾のような螺旋の力を得た拳がガジェットの機体内部に潜り込んだ。 火花を散らす<傷口>から拳を引き抜き、すぐさまガジェットから離れる。 遅れて、大破した機体が爆発した。 「やった!」 ガッツポーズが決まる。 スバルの1体撃破により、残り5体。 ティアナの元を離れ一人、高所から3体を捉えたキャロが攻撃を開始した。 「連続で行きます。フリード、<ブラストフレア>!」 『キュアアッ!!』 幼さを残す雄叫びが響く。小さな体に、しかし確かな竜の力を備えたフリードリヒは魔力の炎を行使した。 伝説にも語られる竜の吐息(ドラゴン・ブレス)―――それと比べるにはあまりに弱弱しい火球が形成され、放たれる。 浮遊するガジェットの真下に炸裂したそれは、見た目に反して広範囲に拡散し、周囲一体を高熱の炎で包み込んだ。 直接的な攻撃力は低いが、瞬時に熱された空気がAMFを無視してガジェットのセンサーと動作を狂わせる。 「―――我が求めるは、戒める物、捕らえる物」 その隙に、キャロは詠唱を開始した。 「言の葉に答えよ、鋼鉄の縛鎖」 眼を閉じて集中する。 無防備な姿を晒すそれは、実戦ではあまりに危険な行為。だが、キャロには必要だった。 力を使う時は、いつだって恐怖が付き纏う。 扱いをしくじれば、自分はもちろん他人も巻き込んで爆発する爆弾のような力。 ずっと忌避し続けてきたそれを、しかし今は使いこなさなければならない。 「錬鉄召喚!」 迷いは吹っ切った。怯えは忘れた。 ここに立つ理由が、わたしにはある―――! 「<アルケミック・チェーン>!」 召喚魔法が発動した。 出現した魔方陣から何本もの鎖が伸びて3体のガジェットを一瞬で絡め取る。 鋼鉄の鎖を召喚し、あらかじめ付与しておいた『無機物自動操作』の魔法によって対象を捕縛。効果としてはバインド系に近い。 しかし、無機物である故にAMFの影響を受けない利点があった。 攻撃力のない魔法の為ガジェットを捕獲することしか出来なかったが、それでも目的は達成している。 これで3体が無力化された。 ―――しかし。 「……なのはさん、これは……」 「うん」 キャロの生み出した成果を見る二人の表情は、あまり明るいものではなかった。特にシャリオは眉を顰めている。 ガジェットを捕縛する、キャロが召喚した鎖―――それは、ただの鎖ではなかった。 何本もの頑丈な針金を束ね、幾つにも枝分かれしたそれの先端は鋭く尖って結果的に茨のような棘を持つ鎖となっている。 それは有刺鉄線と呼ばれる物だ。 更にそれが何本と束になって触手のように蠢き、ガジェットの機体を締め付けていた。 ガリガリと装甲の削れる音が耳障りに響く。 ガジェットは無機物だからいい。しかし、もしこれが生物を対象に使われたら? 「なんというか、エグイですね……」 「対人戦で有効ではあるけどね。倫理的にどうかな」 「何言ってるんですか、あんなの人間相手に使えないですよ!」 その光景を想像して、顔を青褪めさせながら抗議するシャリオの言葉は非戦闘員らしい甘い意見だったが、確かになのは自身も不快に感じた。 あれはもはや捕縛魔法ではない。人を傷つける悪意に満ちた魔法だ。 そして、それを行使するキャロのひたむきな横顔に、酷く不釣合いな代物だった。 「あの鎖、無意識に召喚した物ですよね?」 シャリオの問いはどこか縋るような色が混じっていた。 あの幼い少女が、明確な意思を持ってあの凶悪な鎖を使ったとは思いたくない。 しかし、なのははそれに答えなかった。 「キャロはいろいろと事情を抱える子だから……。 それより、残り2体。モニターしてくれる? ティアナの様子も一緒に」 少々強引に意識を切り替えると、なのはは終わりに近づきつつある訓練の観察に集中した。 「スバル! 上から仕留めるから、そのまま追ってて!」 『おう!』 ティアナの指示に、疑いもなく快活な返答が返ってくる。 AMFとの相性が悪い射撃魔法しか使えないティアナが攻撃に出るのは得策ではない。他のメンバーに任せた方が確実だ。 チームとして考えるのならば、これは最良の判断ではなかった。 その事実を、スバルはやはり分かっていないのか、それとも分かっていて従っているのか。 どちらともあり得るから困る。 ティアナはガジェットの動きを追いながら苦笑した。 「でも、どちらにしろ―――この最初の一歩、竦んでたんじゃこれから先、話にならないのよ!」 覚悟を決め、足を止めてアンカーガンを構える。 射撃魔法でAMFを突破する方法はあるのだ。 外殻の膜状バリアでくるんだ多重弾殻射撃。外部の膜状バリアが相手フィールドに反応してフィールド効果を中和、その間に中身をフィールド内に突入させる。 本来はAAランク魔導師のスキルだが、ティアナはそれを―――もちろん出来ない。100%絶対に。 魔力弾の攻撃力と射撃自体のスキルを鍛えることに集中しすぎた今のティアナに、複雑な魔法の構築技術は持ち得なかった。 所詮、自分は凡人だ。何かを選べば、何かを選べなくなる。 この両手に握る分だけが精一杯。 「だけど……っ!!」 目標を睨み据えるティアナの瞳に、諦めや自嘲など欠片も存在していなかった。 二挺のアンカーガンに装填された二発ずつのカートリッジを全てロードし、持ち得る限りの魔力を両腕に集め、集束し、圧縮する。 慣れ親しんだ動作。それしか出来ないから。そして、それだけを続けてきたのだから。 「私には、私だけの力がある!」 極限まで集中するティアナの脳裏に、フラッシュバックのように過去の記憶が鮮明に蘇った。 ―――兄の死からずっと、力を求め続けてきた。 魔法を覚え、独力でデバイスの知識も身につけて、マイスターには程遠いがデバイスを自作出来るまでにもなった。 自分に才能がないことは分かってる。努力しかないことも分かってる。 だからそれをずっと積み重ねて、それなりに自信も出来て―――そしてあの日、全てが崩れ去った。 仇を憎む気持ちだけで強引について行ったダンテの<悪魔狩り>で、ティアナは自分の弱さを思い知った。 初めての実戦で萎縮する体。滲み出る<悪魔>の姿を恐れる心。未熟な肉体に幼い力―――何もかもが足りない。 作ったばかりのデバイスで何十発もの魔力弾を撃ちまくり、倒せた敵はせいぜい数体。 込める魔力量も、集束もまだ未熟だった。だが、少なくともその時のティアナの全力だった。 数発の魔力弾の直撃を受けて、それでも襲い掛かってくる<悪魔>の前でついに力尽きる。 もうダメか、と思った瞬間に横合いから飛来した魔力弾が一撃でそいつの頭を吹き飛ばした。 「―――なんだ、もうヘバったのか?」 既に他の敵を全滅させたダンテだった。 両膝を着くティアナとは対照的に、こちらには疲労の色すら見えない。 それが二人の差を如実に現していた。 「だから言ったろ? お前にはまだ早いってな」 「……うる、さいっ!」 「焦るなって、人生には余裕が必要だ。教えるのは柄じゃないが、そのうち銃を使うコツくらい教えてやるよ」 そう言って、陽気に笑いかける彼の態度がこの時ばかりは苛立ちしか感じなかった。 「……あんたに、何が分かるのよっ」 魔法に関しては自分に利があるはずだった。 デバイスにも差はない。いや、彼の持つデバイスは自分のアンカーガンのパーツを流用した簡易型だ。むしろダンテの物の方が劣る。 しかし、それらの要素全てを帳消しにしていた―――持って生まれたモノが。 「所詮あたしは……普通の人間なのよ! 魔力もセンスも大して無い! 無い物は少しずつ積み重ねるしかない!」 「オイ、落ち着けよ……」 「焦るなって何? そりゃ、焦らないわよあんたは! だって、最初から持ってるんだから……!!」 才能。素質。天性の力―――ダンテはそれを持っている。 妬むべき存在が、ティアナにとってあまりに身近に居すぎた。 そしてそれは、自分への失望と無力感が混ざり合った醜い激情をぶつける先となる。 「あたしはあんたとは違う!」 そんな卑小な自分が大嫌いで、タガの外れた心は負の感情を彼に向かって吐き出した。 「普通の人間と、あんたは違う!!」 ありったけの声で叫んだ言葉は、<悪魔>のいなくなった空間に痛いほど響き渡った。 沈黙したダンテの顔を見上げられず、俯いたままティアナはその静寂に耐え続ける。 心の奥に溜まった鬱憤を吐き出した後で彼女が感じたものは爽快感などではなく、凄まじいまでの後悔と自分への嫌悪感だった。 私は、最低だ……。 他人を妬む卑小な人間というだけじゃない。 言ってはいけないことを言ってしまった、屑だ。 ダンテが自分自身についてどう思っているのか、彼から初めてその出生を聞いた時に分かっていたハズなのに―――。 「……確かに、俺はお前とは違うな」 長い沈黙の後に聞こえた彼の声は、普段どおりのようで……。 しかし何処か違和感を感じて顔を上げると、普段の陽気さを装いながらも何処かぎこちなく笑うダンテがいた。 その顔を見て、自分は彼を傷つけたのだと悟った。 どんなに表情に出さなくても分かる。 後にも先にも、ダンテが弱みを見せたのはこの時の一瞬だけだった。 「ご、ごめん……そんな、つもりじゃ……」 ならば、一体どういうつもりだったというんだ? 冗談や一時の激情で言っていいことじゃなかった。 それを言ったんだ。自分は、確かな憎しみを持って彼を傷つけたんだ! 「いいさ、気にしてない。本当の事だしな」 「……ごめん」 「よせよ、深刻になるな。お前の素直じゃない態度は慣れっこだ、そうだろ?」 「ごめんなさい……っ」 頭の中はグチャグチャだった。全ての負の感情が内側に向けて湧き上がっていた。消えてしまいたい気分だった。 そうして蹲り、震えるティアナの様子を困ったように見つめ、ダンテは彼女の肩にそっと触れる。 この小さな肩に、背負うものはあまりに重い。 だが、それもティアナ自身が選んだ生き方だ。 ならば自分は、その生き方を嘘にさせない為にティアナを支え、導く―――柄じゃないのは分かってるが、それが死んだティーダへの誓いだった。 「―――ティア、人間は弱いか?」 唐突に切り出された話に、ティアナは弱弱しく顔を上げることしか出来なかった。 「確かに肉体は弱いかもな」 困惑した表情のティアナへ、意味深げに笑いかけてダンテは続ける。 「だが、<悪魔>にはない力がある」 そう言い切るダンテの表情に、嘘や誤魔化しはなかった。ただ確信がある。 恐怖を抱くほどに圧倒的な<悪魔>の力―――『ダンテの中にも流れる』力。 あれほどに分かりやすく強大な力とはまた違う力を、人間が持っていると彼は言う。 ティアナはそれが何なのか知りたくなった。 「人間の、力……?」 「そうだ。そいつは人間なら誰でも持ってる。半端だが俺にも……もちろんティア、お前にも宿ってる力だ」 言葉でだけなら、それは力のないティアナへの慰めに聞こえる。 だが『そうではない』とティアナには分かった。自分を真っ直ぐに見据えるダンテの眼が、そう信じさせるのだ。 知らず、ティアナは自分の小さな手のひらを目の前まで持ち上げた。 この頼りない手の中に、本当に力など隠されているのだろうか? 「その人間だけが持つ力を」 ダンテはティアナの取り落としたデバイスを拾い上げ、手に握らせた。 「―――銃(コイツ)に込める」 「力を、込める」 「そうだ。魔法じゃない、意志の問題だ。それが銃弾に生命を宿す」 ダンテは自分のデバイスを持ち直すと、ティアナに見せ付けるように指先で回転させた。 銃身が華麗に舞う。 普段は意味のないパフォーマンスだとバカにするその光景に、ティアナは魅せられた。 「生命を吹き込まれた弾丸は、持ち主に応える」 回転が止まり、虚空に狙いが定められる。 「後は簡単だ。狙って……撃つ!」 引き金を空引く音が響き渡り、何も出ない銃口の代わりに『BLAME!』とダンテが口ずさんだ。 「すると『大当たり』! ――――な、簡単だろ?」 そう言ってニヤリと不敵に笑うダンテの顔を見ているうちに、その話の内容を何もかも信じてしまいそうな気持ちになる。 我に返った時、心の中に燻っていた黒い感情は綺麗に消えていた。 代わりに堪えきれない可笑しさが込み上げ、ティアナは泣き出すのと笑い出すのを同時に堪えるような変な表情を浮かべた。 「何よ、それ……。そんなに簡単にいくなら、誰も苦労しないわよ」 「案外上手くいくもんさ。そして、一仕事終えたら相棒に祝福のキスだ。忘れるな? 大切なのは愛さ」 冗談めかしてそう言いながら自分のデバイスに口付けの真似をするダンテと、それを見て苦笑するティアナの間に、もうわだかまりはなかった。 この日、それまで積み重ねてきた全ては崩れ去った。 そして代わりに手にしたものは、これまで信じてきたものとは全く違う価値観と、力だった―――。 あの時に教えられた<力>は、今もこの胸に宿っている。 「でやぁああああああっ!!」 ティアナの両腕に集束される魔力がピークに達し、それは電光と化して荒れ狂った。 カートリッジと自身の魔力を掛け合わせ、更にそれを限界まで圧縮した反動によって放電現象を起こす程の力を銃身と両腕に纏う。 魔力を一点に溜める―――魔法の技術としては、ごく単純なもの。唯一つ、それが桁違いのレベルまで極められたものだという事以外は。 強く固められた雪は氷塊となって高温でも簡単に溶けはしない。 エネルギー体である魔力を限界まで集束し、物質化せんばかり圧縮した魔力弾がそれだ。 かつてない現象に、スバル達はもちろん、観察しているなのはとシャリオさえ驚愕に目を見開いていた。 「狙って……!」 過剰な魔力で震えそうになる銃身を押さえ込み、二つのターゲットに狙いを付ける。 ガジェットの動きは速い。もうかなり距離は開いた。 この距離は―――問題ない、必中範囲内だ。 「撃つ! <チャージショット>―――Fire!!」 ティアナの雄叫びに続いて、銃口が咆哮を上げた。 押さえ込まれていた魔力はまるで獣のように凶暴性を増し、雷鳴にも似た銃声を轟かせて『連続で』解き放たれる。 チャージショットは一発の魔力弾に力を集中するのではなく、デバイスそのものに魔力を集束させる事でその威力での連射を可能にしていた。 放たれた六連射。 それら全てに恐るべき威力と弾速を秘めた魔力弾は、一瞬にしてガジェットを捉え、AMFごと機体をぶち抜く。 無効化し切れない程の勢いと圧縮率がAMFを突破した理由だ。単純だからこそ明確で確実な手段だった。 魔力弾は全弾例外なく2体のガジェットを貫通し、その身に砲弾を受けたような大穴を空けた後、なおも道路を抉って霧散した。 「……やったぁ」 動く物がなくなり、誰もが息を呑むように静寂が満ちる中、スバルの感嘆の声が漏れた。 そして、それはすぐに歓声へと変わる。 「ナイス! ナイスだよティア~、やったねっ!!」 実際の声に加えて念話でも聞こえるスバルのはしゃぎ声が、疲労した体に何故か妙に心地良かった。 魔力を振り絞り、神経もすり減らした射撃のせいで息は乱れて脱力感も襲っている。 「このくらい……当然よ」 だが、同時に爽快感もあった。 信じて貫いた果てに、道が見えたのだ。 これまで自分の積み重ねてきた経験が生んだ結果だからこそ、余計に誇らしい。 「―――JACK POT(大当たり)」 自然と浮かんでいた笑みのまま、ティアナは最後を締めるようにそう呟いた。 それからその続きを思い出して、自分のデバイスを見つめたまましばし躊躇い、やがてほんの少し触れる程度にキスをした。 「強引に抜きやがったな、あいつ……」 最後の一撃を見届けたヴィータは、どこか面白そうな表情で呟いた。 傍らのシグナムも同じ顔をしている。 「愚直なまでの一点突破―――魔導師としては未熟だが、騎士としては見所があるな」 「あーあ、また始まったよ。シグナム好きそうだもんな、ああいうの」 「お前も似たような戦闘スタイルだろうが」 魔法以外のスキルで戦闘力を高めるタイプのティアナは、古い騎士の彼女達にとって妙な親近感を与えるものだった。 それに、ティアナ以外の新人メンバーに対しても、予想以上だったというのが二人の見解だ。 「ひよっ子どもには違いねえ。けど……なかなか面白くなりそうじゃねえか」 「同感だ」 可能性に満ちたルーキー達―――そう評したはやての言葉もあながち嘘ではない。 この機動六課があの四人によってどう変わってくのか。 いつの間にか、ヴィータとシグナムの胸のうちにも燻るものがあった。 「はやての言うとおりだ……」 昔と比べると随分変わった自分達の主。 その彼女がよく口にするようになった言葉が自然と出てくる。 「刺激があるから人生は楽しい」 「全員、最初の場所へ集合。10分の小休止の後、訓練を再開するよ」 初の模擬戦訓練をとりあえずの勝利で終え、気を抜く新人達になのはは指示を出す。 モニターに映る四人には少し疲労の色が見えるが、それを上回る興奮が足取りを軽くさせていた。 最初は初のガジェット戦で、半分くらい彼らの敗北を想定していたが、予想を超える結果に満足げに頷く。 「四人とも、思ったよりやりますね。所々驚く場面がありましたよ」 「そうだね。前衛はもちろん、後衛のメンバーの活躍もびっくりしたかな」 シャリオの言葉になのはは同意した。 おそらくこの四人の中では最強の単体戦闘能力を持つスバル。 年齢を考えれば驚異的なセンスとスピードを持つエリオ。 対AMFにおいて有効な手段を見出したキャロ。 そして―――。 「やっぱり、同じ射撃系魔導師のなのはさんとしては、一番気になるのはティアナ=ランスターですか?」 シャリオに意地悪げな笑みで図星を突かれ、なのはは苦笑を浮かべた。 ティアナの放った最後の射撃―――あれが眼に焼き付いている。 「射撃魔法のスキルレベルでは初歩の技。 もちろん錬度は半端じゃなかったけど、誘導性を付加できない過剰圧縮の魔力弾は命中率を完全に本人の腕に依存しているからね……魔導師としてはまだまだ未熟かな」 どちらかと言えば、魔導師というより戦闘者としての能力が高いのだ。 あれがデバイスでなく本物の銃であっても変わりはしないだろう。 「……でも、あの射撃はすごかった。魔力以外のものが込められてるのを感じたよ」 「魔力以外、ですか?」 絶えず四人のデータを取り続けていたシャリオが理解出来ない表情で呟く。 数字やデータでは表示されない何か。 なのはの心を震わせた強い衝動。 「魂、かな……?」 冗談めかして答えながら、なのははそれがあながち間違った表現ではないだろうと思っていた。 かつて自分が幼かった頃は幾つも抱いていて、成長した今はもう思い出す事しかしない、ゆずれない想いや意志。それを感じた。 大人になり、現実を知って、人の輪の中で生きる為の節度も身に付いてきた。 がむしゃらに走るだけなんて、もう出来ない。 ―――でも、少なくともあのティアナにはそんな形振り構わない熱い衝動が宿っている。 久しく感じたことのなかった高揚がなのはの胸の内から沸々と湧き上がってきていた。 何度となく行ってきた新人への教導。今回のそれは何処か一味違うような、不安とそれ以上の期待を感じるのだ。 「……次の模擬戦訓練、少し難易度上げてみようか」 「おっ、本領発揮し出しましたね、なのはさんのスパルタ地獄」 「スパルタで結構。訓練で地獄を味わうほど、現場では楽になるからね」 茶化すつもりだったシャリオは、そう答えて爽やかに笑うなのはの顔が一瞬鬼に見えて、知らず身震いした。 管理局内において<白い悪魔>と評される理由の一端がここにある。 それは圧倒的な力を指すものではない。必要な厳しさならば、例え鬼と呼ばれても痛苦を与え続ける教導官として姿勢から来るものだった。 「八神部隊長も言ってたでしょ? 部隊の誰にでも<不幸>は襲い掛かる。そして、あの子達はその確率が一番高い。 その時に、何かが足りなかったなんて後悔はさせたくない。 だから、わたしは育てるよ。例え鬼と思われてもいい、あの子達が自分の道を戦っていけるように……」 そしてこの四人なら、これまでにない成果を生み出す事が出来る。 そう確信を持って、なのははモニターに映る若きストライカー達を見つめていた。 彼らの訓練は、まだ始まったばかり―――。 出会いと戦いの夜が明け、仕事の報酬を受け取ったダンテは自分のネグラへと向かっていた。 管理局の治安から外れた廃棄都市街の一角にダンテの事務所はある。 少し前まで、そこはスラム同然の都市でもとびきり物騒な、ゴミとゴミ同然の人間が転がる厄介事の溜まり場だった。 しかし今やこの付近一帯に人気は無く、ただゴミだけが転がっている。 もちろん全てはダンテがここに居を構えてからだ。 強盗に押し入った人間が窓から吹き飛び、夜な夜な銃声と不気味な人外の悲鳴が木霊する場所にはさすがの荒くれ者達も近づくのを恐れたのだった。 悪魔も泣き出す危険地帯―――正しくダンテの店はその名を体言していた。 この辺りを訪れる者は、追い詰められて後の無い依頼人か奇特な知人、もしくはゴミ収集車くらいのものだった。 その閑散とした道を、ダンテは呑気に欠伸をしながら歩く。 ここしばらく<合言葉>の依頼が絶えない。仕事があるのはいい事だが、<悪魔>絡みの事件が増えるのは厄介事の前兆だ。 この世にいないハズの者が徘徊する事は、悪夢の序章を感じさせる。 しかし、そんな深刻な予感もとりあえず置いておいて、今はシャワーを浴びて一眠りしたいというのがダンテの本音だった。 区を跨いで仕事に飛び回るのはとにかく疲れる。勤勉な自分なんてスタイルじゃない。 人生には刺激と余裕が必要だ。 それがダンテの信じる世の真理だった。 「それとピザ、それからストロベリーサンデー……」 そんな風にいろいろと個人的な真理を付け加えながら、ダンテは辿りついた事務所のドアノブに手を掛けた。 鍵はいつも掛けないが、この事務所に盗みに入るバカはもういない。 ダンテは何気なくドアを開け、 内側から巻き起こった凄まじい爆発に吹き飛ばされた。 「うぉおおおおおおっ!!?」 ドア越しに奇襲された事はあったが、さすがに事務所を爆破されるのは初めてだった。 完全に不意を突かれた事態に驚く事しか出来ず、ダンテはドアと一緒に為す術も無く宙を飛ぶ。 爆風と炎に揉まれ、ゴミのコンテナに盛大に突っ込んだ。 爆発で事務所の窓という窓は割れ、単なる穴になった玄関からは黒煙が立ち昇る。 その中から、人の形をしていない三つの影が浮かび上がった。 これが<悪魔>のそれであるなら、ダンテにとって日常茶飯事の流れだった。 しかし、今回は違った。 黒煙の中から現れたモノは無機質な表皮とセンサーの眼を持つマシーン。 ガジェットだった。3体のうち2体は、ダンテは知らないがティアナ達も相手をした既存のタイプだ。 しかし、2体を付き従えるように一歩退いた位置に浮遊する一回り大きな影は少々様子が違う。 二つのタンクのようなものが増設され、アームケーブルとは別のベルト状の<腕>を持っていた。明らかに通常のガジェットとは違う強化が見て取れる。 そんな襲撃者達の詳しい情報を、もちろん魔導師ではないダンテは知り得ない。 コンテナに突っ込んだダンテはドアの破片とゴミに埋まり、淵から突き出た二本の足は力なく垂れ下がっているだけだ。 常人ならば、爆発に巻き込まれて気絶したか、あるいは死んだと思える。 一向に動かないダンテの様子を見て、沈黙していたガジェットの1体が素早く動き出した。 アームケーブルを伸ばしてコンテナに近づき―――次の瞬間、装甲を突き破って背中から肉厚の刀身が顔を出した。 「―――おい、鉄屑。風呂場とベッドは吹き飛ばしてないだろうな?」 コンテナの中から不機嫌そうな声が響き、そこから伸びたリベリオンに貫かれたガジェットがかろうじて答えるように火花を飛ばした。 フンッ、という鋭い呼気と共に今度は鋼が宙を舞う。 突然ロケットのように加速した剣に貫かれたまま、ガジェットの機体は事務所の二階に文字通り釘付けになった。 「見ない顔だな? 最近よく見る辛気臭い奴らとは違うが、無表情な奴は好きじゃない」 ゴミを払い落としながらダンテが姿を現した。 残った2体のセンサーを覗き込み、冗談めかして笑うダンテに、しかしもちろん愉快な色など欠片も浮かんでいない。 機械らしく戦いの雄叫びも上げずに、通常タイプのガジェットが突然攻撃を開始した。 中央の黄色いパーツから細く集束された熱線を放つ。 センサーに偽装し、攻撃に予備動作も伴わないその一撃を、ダンテは軽く体を傾けるだけで難なく避けた。 「おいおい、いきなり青色の変なもん撃ってくるな」 肩を竦めながら無造作に敵に歩いて近づく。 間断なくガジェットからの射撃は続くが、それらは全て人ごみを避けるような何気ない動作で回避されていた。 すでに目の前にまで接近したダンテを恐れるように、今度はアームケーブルが伸びる。 もちろんその細いアームの打撃力は低い。眼を狙って迫る攻撃を、やはりダンテは難なく掴み取った。 「腰を入れろよ、タイソンのパンチの方が十倍速い」 リベリオンは事務所の二階に突き刺さったままだ。 ダンテはそれを呼び戻すこともせず、空いた右手を硬く握りこんだ。 「形が似てるからお前はサンドバックに決定だ」 そして次の瞬間、拳がガジェットの鋼鉄のボディを掬い上げるように打ち抜いた。 腰の捻りと体重移動を十二分に効かせたプロボクサー顔負けのブローが、センサーの防護ガラスを砕いて機体内部に潜り込む。 中にある部品らしきものを適当に掴んで抉り出し、続いて体重を乗せた撃ち下ろしの右が炸裂する。 装甲を陥没させたガジェットは地面にめり込んで完全に沈黙した。 「ハッハァ、硬いサンドバックだったぜ! ……痛ぇ」 テンション高く両手を広げるポーズを見せつけたダンテだったが、やはり堪えきれずに少し赤く腫れた右手を押さえて蹲った。 しかし、残った最後の1体はそんな彼の無防備な姿を見ても微動だにしない。 どうやら奴が敵の真打ちで間違いないらしい。笑みを消し、拳を擦りながらダンテは鋭い視線をそいつに向けた。 『―――素晴らしい。素手でガジェットを破壊するなど、人間離れした力だ』 唐突に、口も持たないそいつが喋りだした。 スピーカーを通したような電子音声には確かな感情を含んだ人間味がある。 ダンテはそれが事務所を爆破した傍迷惑な黒幕の声なのだと察した。 この機械を通して何処かで見ているのか? 『いや、そもそも君は半分ほど人間ではなかったね。これは失礼した』 そして続くその言葉に、ダンテの雰囲気は豹変した。 敵も味方も変わらず相手をからかうような余裕のある態度が消え失せ、黒い瘴気を纏う殺気が噴き出す。 「……どうやら、随分と根暗な野郎みたいだな。コソコソ人の事を嗅ぎ回るんじゃねえよ」 目に見えるほどの魔力を体から立ち昇らせて、ダンテは明確な敵意を無機質なセンサーに叩き付けた。 それは例え電波を経由しても消せない、絶対的な死を予感させる言霊だ。 ほんの僅かだが、スピーカー越しに息を呑む音が聞こえた。 『…………恐ろしいね。今の君は<悪魔>寄りらしい』 「そう思うならとっとと出てきて謝罪しな。事務所の修理費払うなら、許してやってもいいぜ」 そう言って口の端を吊り上げたダンテの顔は、笑みの形を作りながらも牙を剥く獣のそれだった。 ガンホルダーからデバイスを抜き、いつ攻撃が始まってもおかしくない緊迫した状況で、二人の会話は続く。 『それはすまなかったね、悪気があったわけじゃないんだ。実は君とは友好的な関係を築きたいと思っている』 「だったら、まず人と話す時には顔くらい見せるようにしろよ。 ママに言われなかったか? 『顔を向けて話しなさい』『名前を名乗りなさい』『他人の家を爆破しちゃいけません』」 丁寧な物言いが逆に勘に触る。 今すぐにも撃ちそうになる苛立ちを抑えるように、ダンテはデバイスを玩んだ。 『これはまた失礼した。ワケあってまだ本名は明かせないが、私のことは<ドクター>と呼んで欲しい。この機械を作った博士だ』 「OK、ドクター。さっさと本題に入ってくれ。この鉄屑を弁償しろってんならお断りだ」 ダンテは足元に転がったガジェットを踏みつけた。 『それでは本題に入ろう―――<魔剣士の息子>である君の力を貸りたいのだ』 <ドクター>の口にする情報に、もうダンテは驚く素振りを見せなかった。 何処で手に入れたかは知らないが、コイツは自分を知り尽くしているらしい。動揺して見せるだけ癪だ。 だが、話の内容は少しだけ意外だった。 「……依頼か?」 『契約だよ。私の目的の為に力を貸して欲しい。もちろん、十二分な報酬は用意するつもりだ。 金は言い値で払おう。君が失った魔具を含め、戦闘力の面でも君の力を引き出す最高のバックアップを用意している』 提示される仕事の内容を聞き流しながら、もはやダンテは何も言わず静かにデバイスをガジェットへ向けた。 コイツは<悪魔>を知っている。 それでもなお、恐れを見せない人間は二通りだ。悪魔を恐れぬ心の持ち主と―――悪魔の力に魅せられた者。 しかし、完全な敵対者となったダンテの敵意を意に介さず、ガジェットから聞こえる声は話を続けた。 『―――もちろん、この世界の技術であるデバイスも最高の物を用意しよう。そんな出来の悪い玩具などではなく』 ダンテの握る簡易デバイスを指して、何処か嘲るように言った。 その一言で、ダンテの大して迷いもしなかった意思は完全に固まった。 「そいつぁご親切に。―――『NO』だ」 <ドクター>の誘いを歯牙にも掛けず、引き金を引いた。 しかし、魔力弾は発射されない。カチッカチッと虚しく引き金を空引く音が響く。 ダンテのデバイスに備えられたトリガーは機能のない完全な<遊び>だ。銃を使う時の癖と、魔力弾を放つ時のイメージをしやすくする為の物に過ぎない。 だから引き金を引いてもそれが作用して弾が出ることは無いが、それ以前に魔力が集束出来なかった。 『言い忘れていたが、既にAMFの範囲内だ』 眉を顰めるダンテを嘲笑するように<ドクター>が告げた。 『君の魔力結合は、この無効化フィールド内では即時分解される。分かりやすく言うと―――無駄だ』 「なるほど、クソッタレな機械だ」 いつの間にか装置を発動させたガジェットを睨み据え、ダンテは舌打ちする。 やはりダンテの知らない情報だったが、このガジェットは新型の試作品として造られた物だった。 AMFの範囲と出力共にこれまでの物を凌駕し、例えダンテのデバイスが高性能であってもこの中で魔法を行使することは酷く難しい。 そもそも遠隔操作によって全く身の危険のない<ドクター>は余裕を持って会話を続けた。 『ところで、理由を聞かせてもらっていいかな? 何故、私の依頼を断るのか』 「簡単さ、あんたが気に入らない」 『事務所に関しては弁償しよう』 「それにな」 無力化されたデバイスを目の前に掲げ、ダンテは小さく笑った。 陥った自らの状況に怒りと苛立ちを感じる中、そのデバイスを一瞥した瞬間だけ瞳から険が薄れる。 「―――こいつは俺のお気に入りでね。それを馬鹿にされて、尻尾は振れないな」 視線をガジェットに戻した時、ダンテが向けたものはそれまでの黒い感情ではなく、汚れない人間としての怒りだった。 もはや単なる鈍器と化したデバイスを、再びガジェットに突き付ける。 『……どうやら、脅威となるのは君の<力>だけのようだ。精神はあまりに不完全すぎる』 「それが人間さ。交渉が決裂したところで、こいつを喰らいな」 『だから無駄だと……っ!』 嘲りは驚愕を以って遮られた。 突きつけられたデバイスと、それを握るダンテの腕におびただしいまでの魔力が集結しつつある。 血のように凄惨で、炎のように燃え滾る真紅の魔力。 極限まで集束されたそれが、AMFの影響下にあってなおプラズマのように荒れ狂ってスパークを繰り返していた。 「玩具かどうか試してみな? 悪魔を葬る銀の弾丸だ、ドクター・フランケンシュタイン」 ニヤリと笑うダンテの形相は恐ろしい気迫に満ちていた。 暴走寸前にまで込められた魔力が放たれた際の威力は想像に難くない。 もはやガジェットは完全に沈黙を貫いている。機械の姿に怯えは見えず、しかしセンサーの奥で潜んで見える恐怖を隠して。 そして唐突に、ガジェットは逃走に移った。 弾けるように上空へ飛び上がり、そのまま高速で飛行して、空を飛べないダンテから逃れようとする。 しかし―――。 「―――JACK POT」 引き金を引く前から必中確定。真紅の魔力弾が、無防備な標的の背を撃ち抜いた。 轟雷のような銃声が響き渡り、次の瞬間銃口の先では大穴を開けられたガジェットが空中分解しながら落下していく。 先ほど自分が突っ込んだゴミのコンテナへ、盛大な音を立てて墜落した鉄屑を見届けると、ダンテはデバイスをクルリと回してガンホルダーに滑り込ませた。 「な、簡単だろ?」 誰にとも無く呟いて、ダンテは黒煙を上げる残骸の元へと歩み寄った。 弱弱しい煙を見る限り、火事の心配はないらしい。ゴミと一緒に綺麗に収まったガジェットの破片を見て、片付けの手間が省けたと満足げに頷く。 しかし、残骸に混じって見える鈍い輝きに気付いて眉を顰めた。 大破した機体の中に手を突っ込み、どうやら格納されていたらしいソレを引きずり出す。 「……まいったね、コソ泥の真似までしてたのかよ」 それは剣だった。 ダンテが常備するリベリオンとは違う形状の、一回り小さな両刃の剣だ。 シンプルな装飾と特色のない造形美を持つその剣の名は<フォースエッジ> 事務所に置いてあった物だった。 「コイツが目的だったのか……?」 どうやらおかしな細工はされていないらしい剣を眺め、訝しげに呟く。 襲撃者の真の目的がこの剣を手に入れることだったとしても疑問は絶えない。 名剣であることは確かだが、一見するとこれはただの剣でしかない。『これ一本では』ただの原始的な武器でしかないのだ。 そんな物を欲しがるなど、骨董品収集が趣味の物好きか、あるいは―――それ以外に剣の用途を見つけた者か。 「……まさかな」 脳裏に浮かんだ疑念を否定しながらも、ダンテは服の下に隠れた物を押さえた。 あの<ドクター>の目的がこの剣と、加えてもう一つ、常に持ち歩いているコレを入手することだとしたら―――? <この世界>に現れ始めた悪魔を見た時、自分の宿命とは逃れられないと悟った。 そして今、そのクソッタレな運命の導きとやらが、再び自分の目の前に強大な闇を招こうとしている。 「親の因果が子に付き纏うってか……もうちょっと楽させて欲しいんだけどな」 自分だけが知る深刻な事態の進行を茶化すようにぼやいて踵を返す。 とりあえず、今見つめるべきは、待ち受ける過酷な運命とやらでも謎に満ちた強大な敵ってヤツでもない。 二階に愛剣が突き刺さり、未だに窓から弱弱しく煙を上げる事務所の前に立つ。 ドアがなくなって随分と出入りのしやすくなった玄関から泣きそうになりながら中を覗き込んで、それから頭を抱えたくなった。 リフォームを終えた事務所の内部は見るも無残な有り様と化していた。 革張りのソファーは綿が飛び出し、苦労して手に入れたレア物のジュークボックスは横倒しになっている。床は穴だらけだ。 天井で弱弱しく回っていたシーリングファンが、ついに力尽きて落下する乾いた音が空しく響いた。 正直、敵が残したダメージはこちらの方が深刻だった。 「……OK、ドクター。あんたの気持ちはよく分かった」 再び対峙することがあればもはや無条件に敵となる決意を固め、ダンテは恨みを込めて呟いた。 「次に会ったら修理費を請求させてもらうぜ、利子付きでな」 to be continued…> <ダンテの悪魔解説コーナー> ・ファントム(DMC1に登場) 俺は蜘蛛が嫌いだ。脚が多すぎるからな。 待ち伏せして、糸でもがく獲物を絡め取る陰湿な性格もいただけない。 だが、そんなイメージを<幻影>なんて名前と一緒に吹き飛ばすのが、この巨大な蜘蛛の化け物の実態だ。 マグマの肉体を硬い外骨格で覆い、強力な炎の魔力で周囲を焼き尽くして、馬鹿でかい口で人間なんて丸呑みにしちまう。 特に長い年月を生きて力を蓄えた奴は魔剣の刃さえ弾き返す。まるっきり重戦車並だ。 何より恐ろしいのが、実際の蜘蛛の生態と同じでコイツが種族を持つ一匹単体の存在じゃないって点だ。 何千という子蜘蛛は、もちろん悪魔の弱肉強食の中で淘汰されてほとんど生き残らない。 しかし、その内の何匹かは見事生き延びて、上位悪魔に君臨する化け物へと成長するわけだ。 決して多いわけじゃないが、こんな化け物が複数存在するなんて、考えるだけでもゾッとするぜ。 さすがの俺も、退治には骨が折れるだろうな。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1329.html
魔法少女フルメタなのは 第四話「wake from death」 宗介達の歓迎会からしばらく経ったある日。 フォワードメンバーの訓練が一区切りついたという事で、その日は丸一日の休日となった。 スバル・ティアナ・クルツはバイクで、エリオとキャロはモノレールで町へ向かうらしい。 ちなみに宗介は隊舎の近くで釣りをする為、一人出かけずに残った。 釣糸を垂らし、間に読書していると、スバル達からの通信が入る。 「相良さ~ん、そっちはどうですか~?」 「問題ない。ここはなかなか良い場所だ。すでに何匹か釣り上げた。」 「オメーも一人じじくさい事してねーで、一緒に来りゃ良かったのによ。」 「特に用事も無かったし、読みたい本もあったのでな。休みの日はやはり釣りか読書に限る。」 「ほんっとにオメーはじじむさいな…他に何かねーのかよ?」 「まぁいいじゃないですか。相良さん、帰る時にお土産買っていきますけど、何か欲しい物とかあります?」 「いや、特に希望はない。」 「じゃあ何か見繕って買っていきますね。それじゃ、また後で。」 「ああ。」 そして通信は切れた。 「平和だな…」 宗介は何気なく呟く。 元の世界で紛争や革命の火消し役として世界中を飛び回っていた宗介にとって、今こうして静かに過ごす時間は極めて貴重なものだった。 穏やかで何もない日が無い訳ではなかった、多忙で命懸けの日々と比べれば、それは束の間の休みにしか過ぎず、それ故宗介は一人静かに過ごせる時はこうして釣りと読書を行い、短い時間をより充実させているのだ。 しばらく釣りを楽しんでいた宗介はふと元の世界の事を思い出す。 (大佐殿…息災でいるだろうか。帰ったら怒らせた事を謝らなくては… カリーニン少佐…あのボルシチの味も今では懐かしいな。…二度と食う気はないが。 マオ…帰ったらまたどやし付けられるな。それで帰還祝いでまた朝まで酒盛りだろうな…) そして、やはり思い出すのは… (千鳥、今君はどうしているだろう…) 宗介の大切な女性、千鳥かなめの事だった。 だが、かなめの事を思い返す宗介の表情は暗かった。 はやては元の世界を探してくれると言ったが、管理局も把握しきれていない無数の世界の中から、特定の世界を探すというのは容易な事ではなく、長い時間を要するのは確実だったからだ。 (千鳥、俺は…) 宗介はそんな落ち込んでいる自分に気付き、浮かんできた不安を払拭する。 (何を考えているんだ、俺は。結果も出ていないのに諦めるのは早過ぎる。) 宗介は空を見上げ、心に新たに誓う。 (待っててくれ千鳥。俺は必ず、君の元に…) そこまで考えた宗介に、はやてからの緊急通信が入った。 曰く、エリオ達が町中でレリックとそのケースを運んでいた女の子を発見、ガジェットの襲撃の恐れがある為、宗介も応援に向かって欲しいとの事。 「なのはちゃん達ヘリで現場に向かわせるから、相良君もそれに同行してや。」 「了解しました。」 十分後、宗介達を乗せたヘリが六課から飛び立った。 ミッドチルダから遠く離れた山岳地帯。 その地下深くに、狂気の天才科学者ジェイル・スカリエッティのアジトはあった。 「ガジェット、及び“新型”は間もなく準備が完了します。」 戦闘機人ナンバー1、ウーノが報告する。 「そうかね。クアットロ達はどうしたかな?」 「そちらも問題ありません。ルーテシアお嬢様も予定の位置で待機されています。」 それを聞き、スカリエッティは不敵な笑みを浮かべる。 「フッフッフッ、よし、後は聖王の器をこの手に…」 その時、二人のいる部屋の扉が開き、一人の男が入って来た。 「ようドクター、随分とご機嫌だな。」 スカリエッティは自分に呼び掛けてきたその男を振り返る。 「やあ君かい。まぁ少しね。それで、私に何か用かね?」 「ああ、デバイスも新しい身体も問題はねぇんだが、訓練室で鉄屑と遊ぶのも飽きてな。暇潰しになる事はねぇかと思ってな。」 スカリエッティの作品を遠慮なく鉄屑と呼ぶその男をウーノは睨み付けるが、男は何処吹く風だ。 「そうだね…丁度今ナンバーズが作戦で町に出ているんだが、それの応援に行ってくれないかい?管理局も気付いてるだろうしね。」 「OKだ。ところで、管理局とやらの人間は殺していいんだな?」 「構わないよ。我々の計画が成就する為の尊い犠牲さ。 転送魔法陣の準備はしておくから、早速向かってくれたまえ。」 「クックックッ、あいよドクター。」 男はそのまま扉から出て行く。 男が出て行った後、ウーノはスカリエッティに話しかける。 「ドクター、何故あんな男をここに置いているんですか?」 「彼の戦闘力には目を見張るものがある。下手すればナンバーズも敵わない位にね。 何より、私と彼は様々な所で共通している“友人”だ。追い出す理由はないよ。」 「あの男は危険です!放っておけば我々に危害を…」 「狂人の考えは狂人が一番分かるのだよ。今すぐ彼が裏切る事はないし、危険な時は相応の処置をするさ。 それより今は作戦が第一だ。集中したまえよ、ウーノ。」 「…分かりました。」 作業に戻るウーノ。 「ククッ、さあ、全ての始まりだ!」 ミッドチルダ都市部。 「来ました!地下と海上にガジェット、それと地上に…アンノウン多数!」 シャーリーが報告する。 「アンノウン?ガジェットの新型って事?」 「いえ、それとはまた別系統のような…とにかく画面に出します。」 そして目の前に表れた映像には、宗介達にとって見慣れた物が映っていた。 「〈サベージ〉!?」 カエルの様な頭部、ずんぐりした胴体は、正しく見慣れた旧型ASそのものだった。 「相良さん、知ってるんですか?」 「俺達の世界の二足歩行兵器だ。元の物よりは小さいが…何故あれがここに?」 「考えるのは後だよ。私達は海上の敵を殲滅するから、スバル達は地下、相良君達は地上をお願い!」 「了解!」(×7) それぞれの持ち場へ移動する隊員達。 デバイスを起動し、やって来る敵を待構えている宗介達は、その合間にスバルの言う人造魔道士についての話を聞いていた。 「聞けば聞く程胸クソ悪くなる話だな。えげつねえ事しやがるぜ。」 「同感だな。」 「しかし何でその人造魔道士とやらがレリックを…っと宗介、お客さんだぜ。」 宗介が前方を注視すると、二十機程の〈サベージ〉が接近していた。 「ロングアーチ、こちらウルズ7。敵機とエンゲージ、攻撃を開始する。」 『ロングアーチ了解。ウルズ6、ウルズ7は敵機を迎撃して下さい。』 「ウルズ7了解。」 「ウルズ6了解だ。さ~て、おっ始めるぜ!」 掛け声を上げ、魔力弾を発射するクルツ。 しかし弾丸は当たる直前で、サベージの発したAMFによってかき消される。 「チッ、AMFを積んでやがったか。そんなら…M9、弾種変更、多重弾殻弾だ。」 『了解。多重弾殻弾』 カートリッジが排出され、ライフルの銃口に多重弾殻弾が精製される。 「食らいなカエル野郎。」 放たれた銃弾はAMFの壁を貫き、見事サベージの胸に命中する。 だが今度は分厚い装甲が貫通を阻み、サベージはすぐに動き始めた。 「クソッタレ、ガジェットより手強いな。 おいソースケ、こいつら以外と…」 宗介に念話で話しかけたクルツは、ラムダ・ドライバを発動した宗介がいとも容易くサベージを破壊する場面を見た。 「こちらは問題ない。そっちはどうだクルツ?」「…あーそーだな、コイツ反則技持ってたんだったな…」 「クルツ?」 「何でもねーよ、早いトコこいつらを潰すぞ!」 「了解だ。」 通信が切れた後、クルツはぼやく。 「ったく、全部テメーらのせいだ…吹きとべこの鉄ガエル!」 イライラをサベージにぶつけるクルツだった。 ミッドチルダ海上。 ここでは現在なのはとフェイトが、幻術と混合した敵の増援に苦戦を強いられていた。 「防衛ラインを割られない自信はあるけど、このままじゃ…」 「埒が明かないね…こうなったら限定解除で…」 そんな二人に、はやてからの通信が入る。 「それは却下や、なのはちゃん。」 「はやてちゃん?」 「二人ともそこから離れてや、今から広域魔法攻撃をするで!」 「はやて、まさか限定解除を!?」 「せや。戦力出し惜しみして被害広げたないからな。 それに見分けが付かない以上、完全に殲滅するしかないやろ?」 「ちょい待ち~、はやてちゃん。」 今度ははやてに対してクルツが割込みをかけた。 「クルツ君!?どうしたんや?」 「限定解除とやらをする必要はないぜ。要は敵が見えりゃいいんだろ?」 「それはそうやけど、一体どうする気なん?」 「俺のM9にはASだった頃の機能が一部残ってる。その中にゃ、データを他の機とリンクさせるって物がある。」 「それで?」 「M9の特殊魔法“妖精の目”の効果と、なのはちゃん達のデバイスをリンクさせりゃ幻影が分かる筈だぜ。」 「そんな事可能なん?」 「今やる所さ。M9。」 『了解。データリンク開始、“妖精の目”を各デバイスに伝達します。』 約十秒後、レイジングハートとバルディッシュに妖精の目の効果が表れた。 「…見える、実体が見えるよ!」 「これならいける、なのは!」 「うん!いっくよー!」 ガジェットの群れに突っ込み、次々に破壊する二人。 「クルツ君、大きに!後で何かお礼するで!」 「マジで!?それじゃあはやてちゃんのキッスを…ダメ?」 「うーん、口はNGやけど、頬にならしてあげてもええよ。」 「うおおおっしゃあああああーーーー!!!」 狂喜するクルツ。欲望に忠実な男であった。 廃棄都市のビルの屋上。 そこで二人の戦闘機人が海上の戦闘を見ていた。 「幻術がばれたみたいだね。」 「そんな、嘘でしょ!?私のシルバーカーテンがもう見破られたっていうの!?」 「多分、あっちに幻影を判別する技術か術者がいるんだよ。」 クアットロとディエチがそれぞれ言う。 「仕方ないわね。ディエチちゃん、ガジェットしが全滅する前にヘリを砲撃よん。」 「それはいいけど、マテリアルまで撃っちゃって大丈夫なの?」 「あれが本当に聖王の器なら、砲撃くらいじゃ壊れないわ。いいから早くして。」 「分かった。IS発動、ヘヴィバレル。」 イメーノスカノンを構え、エネルギーチャージを行うディエチ。 ズドン! 「これで終わりか。」 二十機目のサベージを屠った宗介は、周囲を警戒しつつマガジンを交換する。 「アル、辺りに敵の反応は?」 『今の所はありません。ですが、遠方のビルの屋上に高エネルギー反応を確認。味方のシグナルではありません。』 「何!?」 その時ロングアーチから、現状では最悪の通信が入る。 「ロングアーチより各位、廃棄区画のビルの上に砲撃チャージを確認!目標はおそらく輸送ヘリ!」 (分隊長達はまだ海上、間に合わない…!) そう判断した宗介は、アルに命令を下す。 「アル、緊急展開ブースター!」 『了解。緊急展開ブースター作動』 宗介の背中に巨大な魔力の翼が広がり、同時に表れたブースターが火を吹き出す。 これは魔力を著しく消耗する代わりに、通常の飛行魔法より遥かに高速で飛行出来るという魔法である。 尚、AS時は戦闘機の様に飛び続けるだけだったが、アルがデバイス化した際にヘリの様にホバリングする機能が追加されている。 宗介が飛び立つと同時にディエチの砲撃も発射され、宗介とヘヴィバレルのエネルギーはほぼ同じスピードでヘリに向かう。 (間に合え!!) タッチの差でヘリに辿り着いた宗介はラムダ・ドライバを全開にし、砲撃を真正面から受け止める。 「おおおおおお!!」 砲撃と精神力の壁がぶつかりあい、辺り一面に閃光が走る。 閃光が止んだ時、そこには肩で息をしている宗介がいた。 「ロングアーチ、こちらウルズ7、ヘリは守りきったぞ。」 「相良さん!」 大喜びで答えるシャーリー。 「これより砲撃地点に向かい、犯人を確保する。 「あらら~って、あの能力って…」 「あの男と…同じ?」 「マズいわ、ディエチちゃん引き上げるわよ。」だが退却しようとする二人の足下に、魔力弾が弾痕を作る。 「っ!?」 「スナイパー!?」 「おいたをする悪い娘は逃さないぜ。 宗介、足止めはしとくから、早いとこ確保しろ。」 「了解だ。」 宗介はクアットロ達のいるビルに到着し、腰からショットガン“ボクサー”を引き抜いて言った。 「管理局機動六課だ。お前達を拘束する。」 だが宗介は不意に殺気を感じ取り、反射的にその場から飛び退いた。 ズガガガガガガガガ!! 銃声が響き、たった今まで自分の立っていた場所が穴だらけになる。 「よお~久しぶりだなぁカシムゥ。」 そして宗介は声のした方向を見た瞬間、息をするのも忘れた。 「まさかこの世界でもお前と出会うとはなぁ。運命ってやつを感じねぇか、カシム?」 「何故だ…何故お前がここにいるんだ…」 「おいおい、もっと気の利いた事は言えねえのかよ、感動の再会なんだぜ?」 「何故生きているんだ、ガウルン!!!」 そこにいたのは、宗介が完全にトドメを刺した筈の仇敵、最凶のテロリストガウルンだった。 続く 戻る 目次へ 次へ